火曜コラム「オススメ書籍」第21回:村木厚子「公務員という仕事」ちくまプリマー新書
本書は、男女共同参画や障がい者雇用を軸に厚生労働省で勤め、最終的には女性事務次官として職務を全うした著者による、公務員の仕事を紹介した本です。なお、著者の名が知られるきっかけとなったのは、2009年の郵便不正事件の被疑者として逮捕され、その後、検察の不祥事が発覚し無罪となったことではないでしょうか。本書でもその点に少し触れていますが、著者は恨みや怒りではなく、検察ひいては公務員のあり方を提起していて、その点からも著者の公務員という仕事に対する誇りや矜持を感じます。
本書の内容は、基本的に、著者が公務員として経験したさまざまな困難や成果を振り返ることを通じて、公務員という仕事について考察するというものです。特に、男女共同参画については、著者のキャリアと政策の顕著な進展がシンクロしていて、大きなやりがいを見出しているように思います。もちろん、この分野の課題もまだまだあると思いますが、それでも少しずつ壁を突破し成果を積み重ねてきたところは、当事者である本人にしか語れない公務員の仕事の大きな魅力だと思います。
また、公務員の仕事には問題点もありますが、著者がそれを前向きに捉えている点も興味深いものでした。典型的なのは、公務員の頻繁な異動です。およそ2年おきに異動すると、せっかく覚えた仕事を生かせないという欠点が強調されていました。もちろん、ゼネラリストの育成といった目的があるのだと思いますが、同時に弊害も大きいと考えられているのです。しかし、著者は「この頻繁な人事異動のおかげで常に新しい仕事にチャレンジさせられるので、飽きるということはない」と、前向きに捉えています。地方公務員を経験した私も、なるほどと思いました。
なお、その前の章で書かれていた「リレー方式」という視点も参考になります。つまり「公務員の仕事は、長い距離をバトンをつなぎながら進めていく仕事」という考え方です。頻繁な異動があるため、すぐに次の担当者に引き継がなければなりません。せっかく覚えた仕事を生かせない、せっかく持っていた想いをつぎ込めないというデメリットも、確かにあるかもしれません。しかし、次の担当者は前任者の想いを引き継ぎながら、自分にしかない新たな視点を取り入れることができます。その結果、より大きな視野で政策を進めることができるわけです。新政権で「タテ割り行政の打破」が重視されていますが、公務員の頻繁な異動がなかったらタテ割り行政はもっと極端になっていたのではないか、とさえ思いました。
本書の最後には、これからの公務員の働き方が述べられています。外の世界に出てみること、つながることの重要性を強調しています。公共の分野は、政治や行政(公務員)が単独で担っていくものではなく、国と地方、そして住民がそれぞれの役割を果たし、連携していくことで望ましい姿を実現するのだと思います。そのためには、公務員が外に出て積極的につながっていくことが重要だと、私も思います。公務員という仕事の魅力とこれからのあり方を考えていくうえで、大変参考になる本です。