連載企画:リアル体験!地方公務員の仕事紹介「計画の原案づくり」
地方自治体には、さまざまな計画があります。環境や福祉、公共施設など、分野ごとの計画と、それらを束ねる総合計画などです。しっかり計画を立てて政策を進めるのは大変良いことですが、「計画インフレ」と言われるように乱立気味であることも否定できません。また、国の要請や補助に基づく計画も多いので、「誰のための計画なのか」といった問題もあると思います。
そうした批判や課題については改めて述べることにして、今回は地方公務員がどのように計画を作っているか紹介します。とは言っても、地方公務員が作るのは計画の原案、たたき台です。それを基に、修正や追加をするのは学識経験者(大学教授などの専門家)や関係者(経済団体や子育て支援機関など、計画の分野に関連する方々)で構成される会議体です。「〇〇計画審議会」「〇〇計画策定委員会」などと呼ばれます。この会議体は計画策定のために設置され、人選は自治体が行います。そして、この会議体に対して「諮問(〇〇計画を作ってください、と依頼すること)」を首長が行い、それを根拠として策定に関わることになります。策定が終われば「答申(完成した〇〇計画を提出すること)」を首長に対して行い、会議体は役割を終えます。地方公務員が作成する計画の原案は、この会議体に提示する原案です。そこで、原案作りの前後に分けて、地方公務員の仕事を述べます。
原案作りの前の段階では、原案作成のための情報や資料を集めることから始まります。多くの場合、計画に盛り込む政策を所管する部署に照会(資料提出の依頼)をします。計画に載せる文書そのものを担当部署から提出してもらう場合が大半です。そして、文書の裏付けとなる資料も付けてもらいます。そうすることで、計画に必要な題材が集まってきます。
次に行うのは、担当部署から集まった資料を組み合わせ、1つの計画書に落とし込むことです。1つ1つバラバラになっている政策を、統一した理念やスローガンの下にまとめ、整理します。これを「体系化」と呼びます。簡単に言えば、目次を作って章ごとに盛り込む内容を配置していくことです。1つの計画となるので、表現の細かな統一も行います。また、担当部署が提出した資料に書かれていないことを書いたり、修正したりする場合は、担当部署に確認を取って了解を得ておきます。これらの作業が地方公務員の腕の見せどころと言えるでしょう。これで原案が完成します。私も職員の時の最後の仕事がこれでした。総合計画の担当として、すべての部署の仕事を見渡せる経験ができたのは、今も大きな財産になっています。
最後の取り組みは、審議会に原案を提示して意見をいただくことです。さまざまな意見が出てきます。会議体のメンバーから出てくるのは、それぞれの立場や考え方に沿って「〇〇のことも書き込んでほしい」「〇〇は重要だからもっと踏み込んでほしい」といった具体的な意見から、「もっと攻めの姿勢が必要」「イラストやグラフを入れて読みやすいように」といった抽象的なものまで、さまざまです。これらの意見を集約して修正し、次の会議の時に修正案を議論します。ほとんどの意見は反映されるので(会議で意見が対立する場合もありますが、その時はバランスを取る形になります)、ほぼ修正案のまま了解されて(細かな修正がある場合は対応を一任します)、これで会議体としての役割は終わるのです。つまり、首長に提出する答申が完成します。
最終的に計画を完成させるのは首長ですが、答申の内容はほとんどそのまま計画になります。なので、実質的には会議体が計画を作っていることになります。ただ、計画の原案は地方公務員が作るので、会議体で大幅な修正がされない限り、地方公務員が計画の作成に大きく関わっていると言えるでしょう。実際、私が担当した計画も、部分的な修正で完成しましたので、「自分が作った計画」という愛着があります。施設の建築に関わる部署の方は、自分が設計や建設に関わった施設を見て「自分が作った」という愛着を持つことができると思います(家族に自慢することもできます)が、事務担当にもそれと似たような愛着を持つことができます。私が14年務めた地方公務員を悔いなく退職できたのも、最後に形になるものを残した達成感があったからだと思います。