土曜日企画「ここで差がつく!地方公務員をめざす学生が知っておきたい最新ニュース」-自治体のアナログ対応の早さは素直に喜べない?

 このコーナーでは、毎週ツイート・コメントしている最新ニュースの中から1つだけピックアップして、より詳しく解説、意見を述べたいと思います。ツイート(リンク)をご覧いただくとともに、最新ニュースを知り、公務員試験の小論文や面接で自分の意見を述べるためのヒントとして、活用してください。

 今週ピックアップするのは、次のニュースです。

 「通知印刷前で間に合った」 10万円一括給付に変更続々 北海道

 これに関して、私は次のようにコメントしました。

 自治体の対応が非常に早い。このこと事態は高く評価すべきだが、「だからデジタル化は不要」という流れにはなってほしくない。

 今週は子育て世帯向けの給付金をクーポンを含む形で配るのか全額現金で配るのかという話題で持ちきりでしたが、最終的には無条件で全額現金給付を認めるという形に落ち着きました。事務費を巡る国民の批判や自治体の反乱があまりにも大きく、方針を変えざるを得なかったのでしょうが、変更したことは高く評価できると思います。
 これまでの政策は「動き出したら止められない」と言われてきました。過剰な高速道路や鉄道網の整備、イベントの開催など、さまざまなプロジェクトでこうした傾向が見られます。すでに始めたものを途中で止めるのは、それまでにかかった費用を無駄にすることになってしまいますし、決めたことの失敗を認めたことになるからです。最近ではアベノマスクにもそういった印象があることは否めません。
 しかし、今回の子育てを向け給付金は、途中で政策を変更しました。中止するほどの大きな決断ではなかったとはいえ、これまでの悪弊を打破したことは率直に賞賛したいと思います。「国民や自治体の声に押されて」という、政府にとっては不格好な形であったかもしれませんが、そのおかげで変更できたのですし、圧倒的多数から変更が望まれていたのですから、それらが政府への後押しになって良かったと考えることもできるのではないでしょうか。

 また、この記事にもあったように、今回の支給は所得制限があるものの、自治体の判断と独自財源の負担によって給付対象を拡大することができます。すでにいくつかの自治体ではそうした判断を下したケースも出ていて、記事にも紹介されています。これまで「国の政策だから」という理由で、その枠組みを乗り越えることをあまりしてこなかった自治体が、自ら負担してでも国の枠組みを乗り越える判断をしたことも、やはり高く評価できます。これまでは、国の法制や補助要項が変わればそれに追従し、補助金がなくなれば事業も消滅してきました。自治体はせいぜい補助金のなかから必要なものを選ぶ、まるでファミレスで規格化されたメニューを見て食べたいものを注文するような感覚で政策を実行している側面が強い(もちろんファミレスのメニューも豊富で、どれも美味しいですが…)。今回は所得制限を外すかどうか、給付を上乗せするかどうかの独自判断なので、ファミレスの料理に塩か醤油、ソースのどれかをかけるくらいのアレンジかもしれませんが、国から出されたものを漫然と取り込むのではなく、全額現金給付の声を上げて勝ち取り、独自の対応まで加えたことは今後の自治体のあり方全体にも好ましい影響を及ぼすのではないかと期待しているところです。

 一方、今回の対応がデジタル化の推進にどのような影響があるのかも気にかかるところです。今回の政府方針を受けて、自治体からは「印刷の対応が間に合って良かった」と安堵の声が聞かれたとのことでした。自治体の対応は非常に早く、それが裏目に出なかったのも確かに良いことだと思います。しかし、デジタル化への対応は依然として遅れているのが日本の現状です。全国民に一律10万円を給付する際にも、マイナンバーの活用を断念して印刷だけで対応する自治体もありました。その方が早いと判断したからでしょう。給付を今か今かと待っている人がいるので、その判断は確かに正解なのですが、いつまでも印刷で済ませて良いわけではありません。手書きの手紙から電子メールへの移行は、圧倒的に電子メールの方が早くて便利だから進んだわけです(もちろん手紙の良さもありますが、ビジネスや事務連絡などは電子メールで十分でしょう)。
 キャッシュレス化でも同様の問題があるように思います。キャッシュレス化がなかなか進まないのも、現金で済ませても良い場面が多いからではないでしょうか(キャッシュレス化のコストもあるでしょう)。しかし、このことがキャッシュレス化をますます遅らせることになるのではないでしょうか。現金が便利なことは良いことであるとはいえ、新しい試みを遅らせてしまうデメリットも否定できません。長期的には、後者の面が大きくなって、いつの間にか国際的に取り残された状態になってしまうのです。デジタル化もそうなる可能性が懸念されます。

 今回紹介した記事で、政府の方針変更が印刷に間に合ったことは確かに良かったと思います。方針変更に対する自治体の対応が積極的で、早かったことも良かったです。しかし、このことが時間をかけて行うべき真に必要なことを遅らせてしまうのであれば、本末転倒です。今回の対応がが素直に喜べないのは、そうした可能性が否定できないからです。緊急時だから今すぐできることで対処せざるを得なかったと認識し、本当に必要なことを平時に着実に進める姿勢を失わないよう願います。

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