金曜コラム「私が学んできたこと」第4回: シンプルだが奥深い!作文(論文)の極意とは
『井上ひさしと141人の仲間たちの作文教室』(新潮文庫)という本に書いてあった「作文の極意」がとてもシンプルで明快だったので、名言として記憶に残っている。
「作文の秘訣を一言でいえば、自分にしか書けないことを、だれにでもわかる文章で書くということだけなんですね」
「自分にしか書けないことを書く」ということは研究者にとって最も重要である。誰かがすでに書いてあることと同じことを書いても、研究の価値は全くない。これまでの研究成果の蓄積に、大小は関係なく新しい何かを積み上げていくことが、研究の価値になる。積み上がったものが、まさに「自分しか書けないこと」である。
「だれにでも分かる文章で書く」ということも大変重要である。「自分しか書けないこと」は、「自分にしかわからないこと」 ということであることも多い。しかし「だれにもわからないこと」を書いても、読んだ人は何を新しく積み上げたのかがわからない。だから、研究の価値も認知されない。「だれにでもわかる文章で書く」ことで、初めて研究の価値として広く認知されるのである。
このように井上ひさし氏は作文の秘訣を非常にシンプルに述べているのだが、実はそれが大変難しいことである。自分が知っていることは、つい誰でも知っているという前提で省略して話したり書いたりしてしまう。だから、本人は伝えたつもりになっていても、実は相手に伝わっていないことが多い。「自分にしか書けないことを、だれにでもわかる文章で書くということ」「だけ」と、きわめてシンプルかつ明快に述べているのだが、難しいからこそ秘訣と言えるのだろう。