日曜コラム「マイ・オピニオン」第13回:新型コロナ対策の経済的支援策について-「迅速さ」と「正確さ」のベストバランスを考える
新型コロナへの経済的対応策では、その内容よりも煩雑な手続きに注目が集まっているように見えます。「添付書類が多すぎて大変」「書くことが多いし分かりにくい」「修正にも手間がかかる」などの声が、さまざまな対応策で聞こえています。
その背景には「ここまで書類を整えなくても良いのでは?」「こんなに書かなくても分かるのでは?」「小さなミスはそっちで修正してほしい」などの思いがあるのだと思います。特に、今回は緊急対応で時間との闘いだから、そうした思いも強くなるのでしょう。
一方で、対応策を実施する側の政府にとっては、国民から託された税金(赤字公債の場合は将来世代の負担)を、間違いなく使わなければなりません。どのような対応策を講じるかは政治的な意思決定のプロセスによると思いますが、決まった対応策を適切に実施するのは、公務員の役割になります。
ここで、「適切に」ということは、「正確」「迅速」のバランスで成り立つと考えます。仕事でも勉強でも、正確さを過度に優先すると迅速さが失われますし、逆に迅速さを過度に優先すると正確さが失われます。最近のビジネス書は迅速さを優先しているようですが(私はビジネスでは間違っていないと思います)、公務員の仕事には正確さを求められるものが多いです。
そのため、国民から見ると過剰とも思えるような書類や申請様式になるのだと思います。それが迅速さを犠牲にしている点もあり、公務員の仕事の特徴が表れていると言えます。
ここでバランスの変更を考えてみましょう。つまり、迅速さを優先する形にすると、今度は正確さが犠牲になります。例えば、今回の対応策では、対象者でないのに支給されてしまったり(ミス・不正どちらもありうる)、二重三重に支給されてしまったりすることが多く起きるかもしれません。そうしたこと判明すれば、間違って支給した分を返還してもらうための連絡や手続きが必要になってきますし、返還に応じてもらえるとも限りません。その煩雑さも、かなり大きいのではないでしょうか。そして、何よりも国民からの批判も大きくなると思います。
「返還の手続きが煩雑だから手続きを煩雑にするのだ」という理由は、確かに公務員の都合かもしれません。しかし、正確性を欠いても公務員の仕事は増えてしまいますから、それに対応できる体制が必要になります。少なくとも、今のように正確さを重視する状況での人数では足りなくなると思います。「公務員の仕事はラクでコロナで収入が減らないのだから、このくらいやれ」という意見もあると思いますが、精神論にすぎません。国民が煩雑な手続きの負担を回避したいのであれば、返還の手続きに対応できる体制整備への(人件費等の)負担を真剣に考えてほしいと思います。
もちろん、マイナンバーなど電子化を進めれば、正確さと迅速さは両立できるでしょう。ただし、そうすると今度は国や地方にプライバシーが筒抜けになって管理されるのではないか、との危機感も国民に根強くあります。この点も含めて、バランスの問題だと思います。ベストバランスを模索するためには、国民的議論をしても良いのではないでしょうか。
こうした点を踏まえて、ここから個人的な意見を述べます。私は、それでも迅速さをもう少し優先しても良いのではないかと考えています。なぜならば、正確さを犠牲にしてミスや不正がどのくらいの規模で起こるのかは、正直よく分からないからです。もともと行政関係の手続きは、正確さを重視してきました。今回の経験は、あらゆる手続きに関しても迅速さを優先する社会実験とも言えるでしょう。その結果を踏まえて、どこまで迅速さを強めても大丈夫かを判断しても良いのではないでしょうか。
別の視点からも述べてみます。それは税金の徴収率で、地方税では98~99%に達しています。つまり、滞納の割合は1%あるかないか、といったくらい少ないのです。もちろんこれは金額ベースの計算であり、申請の際の正確さを犠牲にしても問題ないかどうかとは直接の関係はないかもしれません。しかし、これだけしっかりと税金が納められている社会で、不正が起きることを過剰に心配しすぎる必要はないように思います。
それよりも迅速さを優先すれば「速く対応してくれた」点が高く評価され、ミスや不正が多少増えても負担はそれほど大きくなく批判もそれほど出ないのではないか、と推測しています。以上の点から、私は、過度に正確さを追求して国民に負担と忍耐を求めるよりも、もう少し迅速さを優先しても良いのではないかと思っています。