コラム:人口構成から「人出不足なのに賃金低迷」問題を考える

 今週の週刊ダイヤモンド(2020年2月22日号)に、興味深い記事が掲載されていた。「平均賃金はなぜ上がらない?人口動態が導き出す解決策とは」というタイトルの短い記事である。

 「人手不足なのに、なぜ賃金は上がらないのか」という疑問を聞く。なぜならば、現実が経済理論に即していないからである。経済学では、需要と供給が合致するところで均衡価格が決まる(書籍紹介-根井雅弘「ものがたりで読む経済学入門」参照)。労働市場も同じで、働きたい人(供給側-労働者)と雇いたい人(需要側-企業)が合致するところで賃金(均衡価格)が決まるはずである。だが、現実はそうなっていない。それはなぜか?とういうことである。

 よく指摘されるのは、雇用のミスマッチである。雇用形態(正規と非正規)や分野(事務と介護)、性別などで労働の需要と供給が合っていない、ということである。有効求人倍率も、雇用形態別・分野別に見ると、まったく異なる。例えば、事務系は少ない募集に多くの人が殺到するが、福祉系にはいくら募集しても人が集まらない。もちろん、ミスマッチがあれば賃金を調整することで均衡に達する。しかし、賃金をあまり大きく動かすことは難しく、ミスマッチはどうしても残る。

 この記事は、別の角度から要因を挙げている。それは、人口構成だ。生産年齢人口を細かく見ると、1990年から2020年の30年間で20~29歳の人口が32%減少したのに対して、45~49歳は逆に10%増加した。就職戦線は売り手市場で、公務員を含めて初任給は上がっている。一方、ベテランは組織のフラット化やIT化の流れで削減の対象となる。そうした人たちを対象に最近、「就職氷河期の再チャレンジ」といった形で国や自治体が職員を募集しているが、ケタ外れの倍率になったことが報道される。このように、雇用が流動化しつつあるとはいえ、基本的には新卒一括採用と終身雇用が続いている。そのため、人口構成の変化が「人手不足なのに、なぜ賃金は上がらないのか」の要因となりうる。

 ベストセラーとなった藻谷浩介氏の「デフレの正体」も、「人口の波」という表現でデフレの要因として人口構成の変化を挙げた。ただ、この本はベストセラーになったものの、経済学者には響かなかったようである。このコラムも労働市場に同じ視点を取り入れているが、今後注目を集めるかどうかは分からない。個人的には、「デフレの正体」をもう一度読んだ上で、別の機会に考えてみることにたい。

 人口構成が1つの要因だとすれば、我々の世代は大きな責任を負っている。45~49歳に、ぎりぎり私も含まれる。「就職氷河期」の世代であると同時に、「団塊ジュニア」の世代でもある。現在の少子化と急激な人口減少の予測は、団塊ジュニアの世代が子どもを産まなかったことが大きな要因と言える。もちろん就職氷河期にならなければ、また少子化対策をもっと早めにしておけば、もう少し子どもを産んでいたかもしれない。ここで犯人探しをするつもりはないが、いずれにしても我々団塊ジュニアが子どもを産まなかったのである。

 では、何ができるのか。これから我々団塊ジュニアが子どもを産むことは、ほとんど望めない。そこで、記事では「リカレント教育」を提言している。つまり、社会に出てから学び直すことである。北欧の事例が紹介されているが、大学で学んだことが情勢変化で活かしきれなくなった時に新しい専門分野を取得しで労働生産性が向上すれば、人口減少による経済規模の縮小に歯止めをかけることができる。つまり、組織のフラット化やIT化の流れの中でも経済の担い手として活躍し続けることができる。
 

 日本のリカレント教育について、私自身の経験と現在の環境から少し論じてみたい。私は現役公務員の時に大学院に派遣される機会を与えられた。就職して3年目のことだったので、大学で学んだことは色あせていないはずである。しかし、そこは日本のよくある大学生、必ずしも真面目に勉強したわけではない(自慢することではないが)。リカレント教育以前の問題かもしれない。

 しかし、社会人になると、プロフェッショナルとして仕事に対する問題意識が生まれる。そのため、大学院時代の学びは得るものが大きかった(その後、私の人生まで変わった)。

 また、現在私が所属する東洋大学大学院にも社会人の方が多く在籍し、とても熱心に受講・研究されている(もちろん、職場で削減の対象になっているから学んでおられるのではなく、むしろ今後ますます活躍が期待される方々である)。大学で学んだことを、大いに役立てていただきたいと、私自身の職責としてだけでなく心の底から願っている。

 以上の点から、日本でもリカレント教育は有益だと私は考える。しかし、そうした事例はまだまだ少ない。日本の将来という大上段から問題を捉えるならば、リカレント教育の機会をもっと広げるべきではないだろうか。

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