論文の技法:意見を明確にする①いろいろなコメントを知る

 論文を作成するのに最も大変で大切な部分が、自分の意見を明確にすることです。以前、「オリジナリティの重要性」を述べましたが、自分の意見こそ、オリジナリティの最たるものです。

 しかし、それは決して簡単なことではありません。私たちは高校生まで、教科書に書かれていることを正解として覚えることが勉強でした。自分の意見を持つことよりも、教科書を通じて正解を導くことが重視されていました。作文でも、読書感想文など印象を書くことはあっても、意見を書く論文はほとんど書くことがない、というのが実態ではないでしょうか。

 また、自分の意見を最初から論文にできるほど明確に持っている人は、社会人でも少ないでしょう。最初はぼんやりとした意見を、少しずつ自分の意見に育てていくプロセスが必要です。

 そこで、今回から3回に分けて論文のオリジナリティを作るための意見を明確にする方法を紹介します。今回と次回のキーワードは「対話」、最終回のキーワードは「熟成」です。

 対話とは、自分以外の人の意見に多く触れて、自分の反応を探ってみることです。それでは、始めましょう。今回紹介する2つの対話の方法は、比較的簡単に行えるものです。

 1つ目は、周囲の人とディスカッションすること。予定している論文のテーマがあれば、それについて同級生や先輩・後輩、家族などから意見を聞きます。もちろん指導教員にも聞いてみましょう。自分のイメージと全く同じ意見しか出ないことは、絶対にありません。むしろ、幅広い意見を聞くことができると思います。

 あなたは、それぞれの意見を聞いて「その通りだ」「ちょっと違うなぁ」「初めて聞いたけど、そういう考えもあるね」など、素直に感じたことを添えて、コレクションしてください。それが増えていくと自分の意見とは一体何なのかが少しずつ浮かび上がってきます。それぞれの意見をカードなどに整理しておけば、後で自分の意見を求める時に使えるでしょう。

 そして、相手には意見だけでなく、次のことも聞いてみると良いでしょう。「なぜそう思ったのですか」「〇〇という意見(自分の意見に近い内容)はどう思いますか」。相手の意見の背景、その意見がどれほど強いものなのかなどを確認すれば、相手の意見をより深く知ることができます。自分の意見も、より明確にできるでしょう。

 なお、相手は論破する対象ではありません。目的は自分の意見を明確にすることです。自分の意見が不明確なままでは逆に論破されてしまいますし、論破しようと前のめりになると相手は正直に意見を述べてくれなくなるかもしれません。インタビューのように、聞き役に徹して相手が気持ちよく話せるように配慮しましょう。

 2つ目は、コメント付きのニュース記事を読むこと。相手が身近な人ではなく専門家や匿名の人に変わるだけで、誰かの意見を聞くということは1つ目と同じです。ただしニュースなので双方向のコミュニケーションはとれません。

 コメント付きのニュース記事を読むメリットは、最新情報とコメントが一度に入手できることです。いろいろな意見を知ることができるので、それぞれの意見を聞いて素直に感じたことをコレクションしてください。

 オススメは、「NewsPicks」というサイトです。興味のあるニュースに絞り込むことができ、専門家のコメントもたくさん紹介されています。意見の内容も幅広く、それぞれ個性と説得力があるので、大いに参考になります。毎日の習慣にすることを勧めます。

※NewsPicksには無料・有料いずれのプランもありますが、無料プランでも上記のことは十分にできます。

 また、Yahooニュースでもコメントが読めます。専門家以外の意見もたくさん紹介されていて、興味深いものも時々あります。ただし、無責任なコメントもありますので注意してください。

 なお、これらのプロセスで得た周囲の意見は、基本的には論文で引用できるものではありません。あくまでも自分の意見を育てるための手段として活用してください。

 これらの取り組みは、いざ論文を書く時に慌ててやろうとしても、なかなかうまくいきません。日頃からできることなので、回数を重ねればコツがつかめるようになります。興味があるテーマで構わないので、習慣として続けてほしいと思います。

 私もTwitterを使って公務員や政策関連のニュースにコメントを付けています(@inotake555)。参考にしてください。

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