火曜コラム「オススメ書籍」第1回:増田寛也編著『東京消滅-介護破綻と地方移住』中公新書
本書の前に『地方消滅』という衝撃的なタイトルのベストセラーと『地方消滅-創生戦略篇』が出版されたからか、本書への注目度はそこまで高くなかった。しかし、「地方消滅=東京はセーフ」ということかと思いきや、東京までも消滅するというのがこの本である。両方合わせれば『日本消滅』となってしまうのだ。だから、本書も『地方消滅』と同様に衝撃的な注目の書である。
ただし、地方と東京で「消滅」の表す内容は同じではない。地方の場合は若年層の人口減少が加速することで、このままだと人がいなくなってしまう可能性があることを意味している。まさに「消滅=消えてなくなる」というイメージである。これに対して、東京の場合は高齢者が激増して対応できなくなることを意味している。だから、東京の場合は、消滅というイメージではあまりない。「消滅」よりも「崩壊」という言葉の方がイメージしやすいのではないか。
しかし、言葉の問題はともかく、東京も決してセーフではないということは重要な指摘である。東京圏は高齢化「率」は他の地域よりも高くないものの、高齢者「数」は激増する。そのための受け皿づくりは困難であり、そのため余力のある地方への移住を提言したものが本書である。
とりわけ医療・介護の従事する人材を東京圏で確保しようとすれば、地方からの人材流出に拍車がかかり、地方消滅の可能性がさらに高まる。高齢者の地方への移住は、地方の人材を流出させないための対応でもある。端的に言えば、「東京消滅を防ぐ方法は、地方消滅を防ぐ方法でもある」ということであろう。
確かに、東京圏でこうした危機感はまだまだ希薄であり、本書の指摘は大変重要である。また、その対策として地方への移住は有効な方策として検討しなければならないだろう。もちろん、地方にとっては高齢者よりも若年層に来て欲しいかもしれない。そのため、本書の提言を即座に受け入れることには納得できないのもうなずける。しかし、現実は若年層の動きに大きな変化が見られない。このまま状況が変わらなければ、本書の提言も真剣に考える時が訪れるのではないか。
なお、ここにきて新たな状況が生じつつある。新型コロナウイルスの蔓延で、大都市の脆弱性が認識され、リモートワークの普及が進むと予想されている。今後、生産年齢人口の地方移住が加速する可能性もあり、局面も変わってくるかもしれない。しかし、これまで地方創生への本格的な取り組みに思わしい効果が見られなかった中で、淡い期待は禁物である。そして、我々が歳を重ねていくことだけは確実である。コロナ後の社会を構想することは重要だが、問題から目をそらして対応を先送りすることだけは慎まなければならない。
本書の提言は確かにインパクトがあるが、必ずしも唯一の解ではない。序文にも書かれているように「様々なアイデアを出し合いながら手遅れにならないようにしたい。本書がその叩き台になればと願っている」。ここから大いに賛否両論交えた議論を展開しなければならない。