火曜コラム「オススメ書籍」第5回:枝廣淳子著「地元経済を創り直す-分析・診断・対策」岩波新書

 地産地消を唱える書籍は多いが、本書は別の角度から地域の経済を捉えている。それを一言で表せば、「漏れバケツ」である。

 地域の経済をバケツに例えると、地域内に流入してくるお金はバケツの水を増やす。企業誘致や観光振興は、地域の外から内に経済活動を呼び込むことになるので、バケツの水を増やす取り組みである。高度経済成長期から現在にかけて、手段は変化してきたが目的は一貫してバケツの水を増やすため、これらの政策が積極的に推進されてきた。

 しかし、これで地域のバケツに水は増えていったのか。増えなかった。なぜならば、バケツから漏れる水が多かったからである。企業誘致に成功しても、その企業があげた収益は本社のある大都市に漏れ出る。リゾート地に多くの人が訪れても、収益は本社のある大都市に漏れ出る。こうして、せっかくバケツの水を増やすことに成功しても漏れることに目を向けられず、バケツの水は結局増えることがなかったのである。

 そこで、本書はバケツの水を増やすことよりも漏らさないことを重視し、できるだけお金を地域にとどめるための方策を考察している。つまり、バケツから水が漏れているのはどこで、穴の大きさはどれくらいなのか、穴を塞いだり小さくしたりすることはできるのかを分析し、可能な方策を実践していくのである。

 この方法には、従来の「バケツの水を増やすこと」と比べて、いくつかの長所がある。まず、地域にすでにある水を対象としているから、外から入ってくるかどうか分からない水よりも、地域に水を残す効果はあげやすいし、計算もしやすい。また、外に漏れ出ていた水は、増減が小さく安定した規模の食品やエネルギーなどが多い。そのため、漏れを塞げば水が残る効果も大きく、しかも持続的である。

 そこで、バケツの水を増やすことよりも漏れ穴を塞ぐことを提唱したのである。一言で言えば「地産地消」から「地消地産」(地域で消費されるものを地域で生産する)へのシフトである。

 もちろん、これは地域を外から遮断することを主張しているわけではない。しかし、これまで、外からの水を増やすことばかり考えていながら外には平気で漏らしていた。そうした状況は、ただ「もったいない」としか言いようがない。むしろ、入ってきた水を大切に守ることの方が重要だ、という提案はその通りである。

 本書には、国内外の事例も豊富に紹介されていて、興味深い。また、消費のみならず投資にも同様の考えを取り入れ、幅広にバケツの水を漏らさないための提言が盛り込まれている。

 経済学の知識をはじめ多少高度な内容も含まれるが、文章のニュアンスから元気や活力が伝わってくる。多くの人に有益な書籍だと思う。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。