金曜コラム「私が学んできたこと」第7回:現実こそ最大の師
私が経済学を学んだ恩師の言葉である。
経済学には、さまざまな派閥がある。経済と一口に言っても、さまざまな側面から捉えることができるし、時代背景によってさまざまな主張が展開される。そのため、経済のどのような側面を重視するのか、どのような主張を基礎とするのかによって、いくつかの派閥ができる。経済学の場合、そうした派閥の原型の多くが大学から生まれてきたこともあり、「ケンブリッジ学派」「シカゴ学派」など大学名で表されることもある。
ここでは、それぞれの学派がどのような立場なのか、どの立場が有益かを述べるわけではないが、重要なのは、経済という現実は1つである、ということである。もちろん、1つの現実であっても切り取り方によって見え方は異なる。現実の分析や政策提言に関して、派閥ごとに異なるのも見え方が異なるためであろう。
とはいえ、やはり現実は1つである。特定の派閥の見方に囚われすぎてしまうと、見方を誤ることも起こりうる。見方を誤ってしまうと、そこから出てくる処方箋も誤ってしまうかもしれない。
そこで教えられたのが「現実こそ最大の師」ということである。もちろん、経済学を学ぶ人は、何らかの見方を大学や大学院で教えられる(恩師の見方や教育を受けた時期の社会情勢等に左右される)。そのため、必然的に自らもいずれかの派閥に重きを置く形になるだろう。しかし、そうした見方ばかりでなく、いろいろな切り取り方を柔軟にできることが望ましい。それは、処方箋を誤らないようにするためだ。
したがって、政策に関する論文や文献を読む際は、いろいろな見方に触れることを勧めたい。どの見方が現実を適切に切り取り、有効な処方箋を提示しているのかを見極めるためである。場合によっては自分の派閥とは違う見方の方が正しい場合もあるだろう。しかし、どんな派閥であっても、それが求められる現実が過去にあったから適切な処方箋を出し、派閥としての存在が認められて現在に至っているのだと思う。
情勢が変化すれば、情勢に合わせて適切な見方も変わってくる。派閥にとらわれすぎず、常に現実を最大の師として、虚心坦懐に見る姿勢を保っていきたい。