火曜コラム「オススメ書籍」第17回:ハンス・ロスリング他「FACTFULNESS」日経BP

 2020年上半期のベストセラー第1位で、今でも書店で大きく取り扱われている本です。いまさら私がススメるまでもないのですが、やはり読んでみて面白かったので紹介したいと思います。

 メッセージは、いたってシンプルです。「思い込みではなく、データで世界を正しく見よう」ということです。当たり前のように思えるかもしれませんが、実は多くの人ができていないようです。それは、世間で博識と思われているノーベル賞受賞者でも同じということなので、驚きです(これも事実ということですね)。

 冒頭には13のクイズが掲載されています。最初の質問は「現在、低所得国に暮らす女子の何割が、初等教育を修了するでしょう?」というもので、選択肢が「A.20% B.40% C.60%」の3つです。多くの人は低いと考えてしまいがちですが、正解はCでした。似たようなクイズが並んでいるのですが、「何となくそうではないか」と思ったことが実は間違っていると分かり、驚きます。

 実は、私は「地域分析」という講義を担当していて、「地域のことは住民が一番よく知っている」とは限らないというメッセージを発しています。しかし、恥ずかしながらこのクイズは不正解ばかりでした。ただ、これは多くの人が同じで、なんとチンパンジーよりも正解率が低いようです。つまり、思い込みによって誤解の方が浸透しているということです。

 特に、メディアの影響は大きいと思います。「バズる」という言葉がありますが、人々の好奇心を誘うには、インパクトのあるニュースでなければなりません。それはメディアの持続と人間の特性上やむを得ないのかもしれませんが、そうしたニュースばかりを見ていると「それが社会の姿なのだ」と認識してしまうようです。ニュースに出る情報は、社会のごく一部にすぎません。大多数は報道されず、そちらの方がむしろ真実なのかもしれませんが、それが発信されなければ受信もできないので、存在しないことになってしまいます。

 私の恩師も似たようなことを話してくれました。それは「現実こそ最大の師」ということです。私たちは受信したものを無意識に現実と捉えてしまうのだと思います。よく「新聞を読むと、世の中の動きが分かる」と言われますが、恩師は逆で「新聞を読むと真実が見えなくなる」と言っていました。もちろん、新聞は貴重な情報源ですが、記事をそのまま受け入れるのではなく、記事に書かれていないことや別の視点なども想像してみると、より真実に近づけることができるのではないかと思います。今は新聞記事もインターネットで入手するようになり、またtwitterやyoutubeなど個人メディアもあるので、情報源は幅広くなりましたが、それで真実が見えやすくなったとは思えません。むしろ、今までよりも事実をしっかり見ようとする姿勢が必要で、そのことを本書はあらためて示してくれているのではないかと思います。

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