火曜コラム「オススメ書籍」第20回:長沼伸一郎「現代経済学の直観的方法」講談社

 この本は今、書店に行くと大量に陳列されているベストセラーです。しかも、ボリュームが大変大きく、450ページにもわたる大著です。著者は専門の経済学者というわけではありませんが、物理学や経済数学等について「〇〇の直観的方法」という著書を、これまで何冊も出版しています。本書も、そのシリーズの1つと言えます。私がこの本を選んだのは、経済学を学ぶ身として経済学がどのように記述されているかに興味があったのと、経済学を教える身としてどのように学生に伝えれば理解が深まるのかにも興味があったからです。

 本書は経済学のテキストではないので、経済学が体系的に解説されているわけではありません。しかし、広い分野にわたる経済学のなかで、多くの人が関心を持つ9つの幅広いテーマが取りあげられています。そのため、本書で経済学が関心を寄せるテーマをおおよそつかむことができるでしょう。例えば、資本主義の問題や貨幣、物価、貿易、ケインズ経済学、さらには仮想通貨など最新のテーマも触れられています。

 そして、多くの章が「なぜ〇〇なのか?」というタイトルになっていて、私たちが日頃疑問に感じている経済現象を直観的に説明しようとしています。疑問形式のタイトルを見ると、知りたい気持ちになって関心が高まります。例えば、資本主義を扱う第1章では、電車を毎日上ったり下ったりする金貨が全部で100万(円、ドル)だった時に、下り電車と上り電車にどれくらいの金貨が乗るかによって、経済がどのように動くかを説明しています。また、仮想通貨について述べた第8章では、ブロックチェーンの仕組みについて、詳しくて分かりやすい説明がなされています。

  複雑な経済の動きや難しい経済理論を、分かりやすい例えを使って説明した本書は、さすが「〇〇の直観的方法」としてシリーズ化した著者ならではの視点だと感心します。帯に書いてある「わかりやすいくて、おもしろくて、そして深い」という宣伝は、決して大げさではありません。

 この本をおススメしたい人は、経済理論や経済事象に関して苦手意識や分かりにくさを感じている人です。経済学初めて学ぶ人や、経済事象の基礎を知りたいという方には、入門書や新書などを先に読まれた方が良いでしょう。なぜならば、この本は直観的方法による説明を重視しているからです。基礎がある程度固まっていて、さらにレベルアップを図りたいけれども壁にぶつかってしまった、という人にこの本はピッタリだと思います。そして、この本を読んだ後にもう一度壁を感じた本にチャレンジしてみると、今まで理解しづらかったことがスッと入ってくるのではないでしょうか。

 個人的には物理や数学には苦手意識を持っているので、「〇〇の直観的方法」のシリーズを続けて読んでみたいと思います。

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