水曜コラム「公務員の学び」第21回:複眼思考の重要性と地方公務員の利点
公務員の仕事をしていると、さまざまな分野で「全体の奉仕者」たることを求められるので、どうしても歯切れが悪くなってしまうことがあります。1つのものごとにも多面性があり、それぞれの面には、それに関わる多くの人々が存在するからです。
最近の良い例が「はんこの廃止」です。はんこは「時代遅れ」「手数と時間がかかる」などの点から一気に全廃への動きが進んでいますが、一方では、「はんこは文化」「売上が落ちる」など業界からの反対の声もあります。どちらも、はんこの一面を表していますし、それぞれの面に関わっている人々の率直な思いであると言えるでしょう。
ただし、「廃止」を唱え、これまでの流れを断ち切る声に対しては切れ味鋭いと評価され、それに反対する声は抵抗勢力と評価されがちです。時代遅れのものごとを見直し、新しい流れに積極的に乗ることはきわめて重要で、それには決断力とスピードが求められます。しかしながら、多面性を持つものごとを1つの面だけで切ってしまうと、他の面が見えなくなることもあります。その状態で力ずくの意思決定をしてしまうと、別の面から切れば見えたはずの好ましい部分が見えなくなってしまうため、それまで放棄されてしまうことになりかねません。あらゆる面からものごとを捉える複眼思考が必要になります。
確かに、多面的な捉え方をすると、思い切った決断が難しくなる点はあると思います。しかし、多くの政策は多面的で、メリットもデメリットもあるものだと思います。それらの両方を正しく捉えて、最後は思い切った決断をするのが意思決定であるはずです。したがって、決断そのものだけでなく、決断に至った背景として、ものごとの多面衛を正確に把握できているかどうかも重要ではないかと思います。デメリットをあえて明確にせず、メリットばかりを主張して「これしか正解がない」と言ったような形での意思決定は、必ずしも適切ではないように思います。
地方公務員は幅広い分野にわたる組織のなかで、数年おきに異動を繰り返し、キャリアを重ねていきます。それは、まさに異動を通じて複眼思考を身につける絶好の機会ではないでしょうか。確かに異動するとせっかく身につけた仕事から離れなければならないのですが、新たな視点を身につけることができれば、タテ割り行政のなかでも職員は広い視野を持った仕事ができるのではないかと思います。
地方公務員は、仕事を通じて身につけた複眼思考を、ぜひ政策につなげていただきたいと思います。そのうえで、なにごとにもメリットとデメリットがあることを把握し、それぞれを決断の材料として適切に示す存在でいてほしいと思います。