水曜コラム「公務員の学び」第26回:学びを通じて市民感覚と専門的知識のバランスをとる
このコラムも回数を重ねてきましたが、そもそも公務員が学ぶ理由は適切な公共サービスを提供することにあります。そのために、文系では法律や経済、社会、理系では化学や工学などを学び、水準の高い政策に結びつけていくのです。
ただし、政策に専門的知見を取り入れる方法は、自らが学ぶことだけではありません。例えば、専門家に直接意見を聞くこともあります。その方が労力も少なく専門性が高いと言えるでしょう。実際、各分野での審議会などは専門家が集まり、議論を重ねることで高度な知見が政策に盛り込まれるのです。したがって、そもそも公務員自身が学ぶ必要があるのか、という疑念も出てくるかもしれません。
しかし、専門家の知見も多様であり、誰もが同じ意見を持っているわけではありません。したがって、専門家の意見を聞くとしても、どの専門家から意見を聞けば良いのか、ということも重要になります。特定の立場に偏った専門家だけに聞いてしまうと、活かされた知見も特定の立場に偏っていまいます。適切な専門家を選ぶには、公務員自身が学ぶことで判断能力を得ることができますし、それによってだいたいの結論も見えてくると思います。
また、公務員は国民の認識にも配慮しなければなりません。特定の立場の専門家に偏ってしまうと、国民の意識から離れてしまうケースもあります。例えば、エネルギー政策で再生可能エネルギーを猛プッシュする人もいれば、原子力にも一定の役割を認める人もいます。どちらも専門的な知見に基づいた適切な意見だとしても、その方向性は大きく異なります。公共サービスは納税者の負担によって成り立っているので、国民の納得が得られるものでなければなりません。そのためには、国民の納得が得られるような議論をしてもらうため、バランスのとれた専門家の構成が必要になります。
もちろん国民自身は専門家ではありませんし、専門家に任せた方が良い部分はもちろんあります。しかし、サービスの受益者・負担者であると同時に、総合的に物事を捉える主体でもあります。つまり、国民は専門家とは異なる立場と判断基準を持っていて、その意味で一定の役割を持っているのです。したがって、専門家の意見だけでなく国民の認識を踏まえた判断が必要になってきます。このように公務員には、国民の目線にも配慮した政策形成が求められてきます。
以上をまとめると、公務員の学びは、専門家と国民の橋渡しとなり、適切な政策を導くための大切な手段になると思います。公務員の仕事に直結するスキルと言っても良いでしょう。これからの公務員には、大いに学びの機会を持ってほしいと思います。