日曜コラム「マイ・オピニオン」第33回:ふるさと納税の問題の本質は、返礼品競争にあるのではない
新型コロナウイルスの影響で、ふるさと納税があらためて注目されています。主に次の3点からのようです。
第1に、新型コロナウィルスの影響を受けた地域を応援する、という趣旨です。医療への支援はもちろん、観光関連で打撃を受けた地域での特産品購入など、経済面での支援をふるさと納税で行おう、というものです。ふるさと納税によって、経済的打撃を緩和できる効果は確かにあると思います。
第2に、返礼品のメリットが上がっていることです。国では農産物への販売に補助金を支給し、農林水産業を支援しています。補助金が入ることで、販売価格を抑えることができるのです。そのため、例えば販売価格が半分に下がった場合、これをふるさと納税の返礼品とすれば寄付額に対する割合の上限が3割であっても従来の倍の産品を返礼品にすることができるので、実質的に6割の返礼品が認められたことになります。第3に、通信販売の増加です。新型コロナウィルスの蔓延によって不要不急の外出がしにくくなり、通信販売の需要が増加しました。ふるさと納税も多くはネットで申請して返礼品を受け取る形になるので、外見上は通信販売と同じようなものになります。
このように、今年のふるさと納税は新型コロナウィルスの蔓延によって、従来とは違った状況に至っています。ただ、返礼品の内容によって寄付先を選ぶのが寄付する人の中心的な基準であり、過度な返礼品競争に陥るとの批判は今でも該当すると思います(もちろん、医療への支援など災害応援の趣旨の寄付は、そうした返礼品とは違う視点から行われていると思われるので、すべてが返礼品競争であるということはありません)。
しかし、返礼品競争を批判する論調は多くありますが、私は問題の本質は違うところにあると思っています。最も重要なのは、納税への意識ではないでしょうか。
どういうことかといえば、確かに返礼品に注目が集まり、同じ寄付ならおいしいお米や好きなお酒を、できるだけ多く欲しいと思うでしょう。しかし、そもそもふるさと納税をして返礼品を受け取るかどうかを選択する際に、納税によるサービスの対価と返礼品の比較がなされているのです。例えば、1万円の寄付をした場合には最大で3000円の返礼品が受け取れます。しかし、それによって1万円の納税が流出することになり、本来の納税先にとってはサービスの財源が縮小してしまうのです。サービスが縮小して住民のメリットが小さくなれば、「納税しなければならない」という気持ちになるかもしれません。しかし、ふるさと納税で税収が減っても一部は地方交付税で補填されるのですが、自主財源が依存財源で補填されればサービスの対価と負担という関係がますます薄れてしまうのではないでしょうか。
このことから、ふるさと納税の問題は返礼品競争にあるというよりも、納税の意味を低下させてしまうことにあるのではないかと思います。消費税の増税には国民の強い抵抗を背景に何度も先送りされてきました。少子・高齢化や国債残高の増加によって消費税の増税が必須なのは間違いないのですが、ふるさと納税がそうした意識を後退させてしまうようなことがあっては、返礼品競争よりも深刻な問題になるのではないか、と危惧しています。