土曜コラム「今週後半のニュース」第36回:高齢者のスマホ利用状況から見る世代間の分断
今週の後半も多くのニュースにコメントをしましたが、今回は次のニュースを改めて取りあげたいと思います。
「60代」でスマホを使っている人は73%、「70歳以上」では40%
このニュースについて、私は次のようにコメントをしました。
情報取得やコミュニケーションの手段が年代によって大きく異なる現状。世代間の分断があるとすれば、これが一因になっている可能性もある。
公務員は「全体の奉仕者」たることが求められていますが、実際にはいろいろな内容と程度の分断があり、そのなかで全体に奉仕することは大変難しい問題です。例えば、地域間の分断です。私もよく取りあげる「東京一極集中」は、東京圏をはじめとする大都市圏に多くの若者が流入し、地方圏の若者の流出を招いていることから、大都市圏と地方圏の分断があるように思います。地方創生の大きな目的が東京一極集中の是正にあるので、その分断を解消する方策とも言えます(逆に、東京にとっては若者の流入による成長の機会が閉ざされるため、逆に両者の分断を招く面もあるかもしれません)。
また、所得階層での分断もあるように思います。例えば、新型コロナ対策で国民全員に一律10万円が支給されましたが、当初は生活水準の大きく低下した世帯に30万円の予定でした。つまり、困窮世帯にとっては施策の変更により支給が減るケースもあります。彼らにとっては「困っていない人に10万円支給する必要はない」と考えるかもしれませんし、特に困窮していない人にとっては「自分たちも支給を受ける権利はある」と考えるかもしれません。これも分断の1つでしょう。
今回の記事は、世代間の分断を考えさせる記事でした。高齢者は年金や医療などの社会保障を充実してほしいと思うでしょうが、その財源は主に借金や勤労世帯の税金(高齢者自身が支払う消費税も重要になっているので、全世代での負担が進んでいますが…)など、現役世代や将来世代の負担となります。逆に、若年層には子育て支援や就学支援などが手厚くなっていますが、高齢者にとっては「年金が減っているので何とかしてほしい」「自分の若いころは子育て支援などなかった」という認識で両社の分断を招いている面があります。
このように、現実はいろいろな内容と程度の分断がありますが、これを緩和・解消するには両者のコミュニケーションによる相互理解が基本的手段になると思います。つまり、相手の側がどのような考えを持っているのか、なぜそう考えるのかを把握し、理解したうえで、自分たちの考えとどう折り合いをつけていくかを双方譲り合って考えていくことです。
そのためには、情報の発信と受信が必要ですが、この記事はそれが難しいことを示唆しています。若者は大半がスマホを使い、受信も発信もしています。大学のレポートなどもスマホで書くケースもあるようです。一方、高齢者はスマホを持っている人が少ないため、両者が歩み寄るベースがない状況にあるわけです。もちろん、スマホを持たない若者も、スマホを使いこなす高齢者もいると思います。しかし、多数派ではないため、なかなかコミュニケーションがとりづらく、結果的に分断が緩和・解消されない面もあるのではないかと思います。
これを解消するには、高齢者が使いやすいスマホがもっと普及するか、若者がスマホ以外のコミュニケーション手段を習得するか、まったく新しいコミュニケーション手段が登場するか、いずれかになると思いますが、なかなか決定打がない状況と言えるかもしれません。社会保障費の増加が日本の財政を悪化させている大きな要因だとすれば、小手先の数字合わせよりも世代間の分断を解消する方が重要だと思うのですが、このままでは根本的な解決が遠のくばかりではないか、と心配してしまいます。
通信大手が軒並み大容量プランを安く、しかもオンライン専用にしているなかで、若者と高齢者の情報発信・受信の分断が広がらないことを祈るばかりです。