火曜コラム「オススメ書籍」第40回:諸富徹『グローバル・タックス-国境を超える課税権力』岩波新書
税は本来「納める」ものですが、「取られる」と言われるように不本意に納税している人も多いのではないかと思います。消費税率の引き上げでも国民の強い抵抗感の中で選挙の命運を左右することから、現在は10%にまで引き上げられたとはいえ、これまで何度も先送りされてきました。今回紹介する書籍は、個人よりも法人課税とりわけ多国籍企業への課税手法について述べたものですが、企業も同様に税を可能な限り少なく済ませようとするインセンティブが働きます。
税収を得る国はできるだけ多くの税を確保したいところですが、多国籍企業は個人と違って容易に国境を移動できるので、税率の高いところから逃避します。そのため、他国よりも税率を引き下げて多国籍企業の立地を促す租税競争が繰り広げられています。隣国が下げれば自国も下げないと企業が税率の低い国へ移動してしまうので、歯止めの利かない税率の引き下げが起きることになります。
しかし、法人への税率を下げれば国は十分な税収が得られないので、個人への課税を引き上げざるを得ません。消費税率の引き上げは、社会保障の拡充という目的もありますが、法人税率の引き下げと並行して行われているため個人と企業の公平な負担に影響を与えることになります。しかも、巨大グローバル企業は「タックス・ヘイブン」と呼ばれる租税回避国に本社機能や利潤を移転することで不当に課税を逃れているとも言われており、ますます個人と法人の取り扱いの違いに不満が生じることになります。
各国の法人に適切な納税を求めるには、租税競争の環境を根本から変えていくことが必要です。本書では、国単位での課税を維持しながら国際協調を進めていくこと、あるいは、OECDやEUのような国家を超えた国際機関に課税を委ねること、などの方策を検討しています。実際、いずれの方策も実施あるいは模索されていて、もちろん課題はあるもののグローバル化の進展がこれからも続く以上、課税のあり方も変わっていかざるを得ないと捉えています。
本書を読んでいると、グローバル・タックスの議論は特にヨーロッパで議論が先行しているものの、国内では驚くほど議論が少ない、ということです。むしろ、安倍政権で法人課税の実効税率引き下げが進められたように、租税競争を勝ち抜こうという姿勢の方が強調されているように思います。日本の国債残高が世界最悪の水準と言われ少子高齢化が今後さらに進んでいく中で財源の獲得は全方位で検討しなければならず、OECDの一員としてグローバル・タックスの議論ももっと盛り上がってほしいと思っています。
また、この議論は個人への課税にも関わってくるものです。法人課税の動向によって個人課税のあり方も変わってくるでしょうし、富裕層がタックス・ヘイブンで課税を逃れているとも言われているからです。本書をきっかけにして、国内で個人でも含めたグローバル・タックスのあり方がもっと議論されるようになることを願っています。