火曜コラム「オススメ書籍」第42回:橘川武郎『エネルギー・シフト-再生可能エネルギー主力電源化への道』
エネルギー政策に長年深くかかわってこられた著者による、今後のエネルギー政策とりわけ再生可能エネルギーの主力電源化に向けた提言を述べた本です。
菅首相が「2050年カーボンフリー」を宣言したのを機に、エネルギー政策の方向性は新たな局面を迎えました。まもなく震災から10年を迎えますが、これまでの10年間は原子力発電への依存度低減が大きな変化であったと言えます。震災以前のエネルギー政策は、原子力ルネサンスという時代背景のなかで原子力初で所の新増設や稼働率向上を図り、原子力で半分以上を賄う計画でした。それが、震災を機に「可能な限り低減」という形に大転換を遂げたのです。その後、40年が経過する原子力発電所を中心に廃炉となり、一方で新増設が話題に出てこなくなりました。もちろん原子力発電のあり方は今後も議論していかなければなりませんが、新たな局面として本書のタイトルにある再生可能エネルギーの主力電源化をさらに強力に進めていく流れになっています。
再生可能エネルギーとして期待されているのは、太陽光・風力・水力・バイオマスなど、新たな電源が出ているわけではありません。とはいえ、本書では主力電源化に向けて既存の枠組みに加えて新たなアプローチを加えていることが興味深い指摘です。それは。「パワー・トゥ・ヒート」です。これは、電気が足りないときは再エネを電力生産に充て、余っているときは再エネで温水を作り貯蔵・活用する方策です。再エネは自然条件に左右され、需要と供給を常に一致させなければならない状況では再エネとは別の電源などを使って調整しなければならず、それが火力発電の必要性にもつながってきました。しかし、カーボンニュートラルは火力発電と相いれません。「パワー・トゥ・ヒート」はデンマークで行われている政策で、本書を読む限り確かに学ぶべき点があるように思いました。
なお、本書は再エネのみを取り扱ったものではありません。むしろ、火力発電や原子力発電名護エネルギー全体に及んでいます。再エネに大半を割いているということでもないので、エネルギー政策の全体像がどうあるべきかについても述べられています。著者は総合資源エネルギー調査会委員としてエネルギー基本計画の策定にかかわっておられるので、政府の政策を踏まえた部分もあるかもしれませんが、「リアルでポジティブ」という言葉が随所に出てくるように、決して理想像を描いたものではないと思います。そして、だれかに、どこかに負担を強いるものでもないと思います。もちろん、エネルギーにはさまざまな主体がかかわっているので、それらを調整しながら政策を策定するのはきわめて大変なことだと思いますが、再エネの主力電源化は地球温暖化対策としてきわめて重要な課題と思われるので、大きな目標として共有しつつ個々の政策を詰めていくことを望みたいと思います。