水曜コラム「今週前半のニュース」第15回:コロナ禍で法人税の環境も変化?
今週前半も多くのニュースにコメントをしましたが、今回は次のニュースを改めて取りあげたいと思います。
このニュースについて、私は次のようにコメントをしました。
少し前まで税率引き下げ競争に参戦していたのが、大きな変化となっている。
経済のグローバル化により、企業の海外進出も急速に進んできました。先進国には大規模な市場を求めて企業が進出し、新興国には安い人件費と成長への期待を求めて企業が進出していきました。特に、中国などアジア経済の成長は、日本企業のアジア進出を加速させ、その結果、これまで地方圏にあった工場は海外に移転して地域経済の空洞化が進んでしまいました。
そして、地方圏だけでなく大都市にもグローバル大企業のアジアにおける拠点をとして、東京だけで中国やシンガポールなどに置く企業も出てくるようになり、東京の国際都市としての地位もこうした企業の立地状況に左右されます。東京一極手中を是正し地方圏の人口減少を抑制することと併せて東京を競争力のある国際都市にするという日本創生会議の提言も、地方圏のためだけでなく今後の東京圏にとって不可欠の要素となるからです。
グローバル企業がどこに拠点を置くかについてはさまざまな判断要素があると思いますが、税率もその1つです。法人課税の税率が高い国が避けられるのは、当然です。そこで、国際都市として、あるいは国内における雇用や経済活動を拡大するために法人税率を低く設定し、自国に拠点を誘導する国際競争が激化してきました。
日本は法人課税の実効税率が高い国と言われ、アベノミクスの一環で税率の引き下げが進められてきたところです。ただ、逆に消費税は引き上げられたので「逃げられる法人を優遇し、逃げられない国民に負担をかけるのか」という批判もありました。
今回の記事は、そうした傾向に大きな転換が生じていることを表しています。デジタル化の進展により、その国に拠点がなくても法人は活動できるようになっています。これまでは、拠点がなければ法人は活動できず、それゆえ課税もできない、ということでした。しかし、それではデジタル化に対応できません。また、新型コロナの蔓延により多額の財政出動が各国で行われていますが、その財源を確保する方策が求められています。こうしたことを背景に、法人課税のあり方を「国際競争」ではなく「国際協調」に大転換しようという動きが起きてきて、アベノミクスの時代からの大転換が進んでいることをこの記事から実感します。
もちろん、これは国だけの問題ではありません。法人への課税はー都道府県や市町村でも行なわれています。国の方針が変われば、地方自治体の法人課税のあり方も変わってくるでしょう。もっと言えば、今後さらに必要な消費税率の引き上げにも影響する可能性があります。国際協調は決して容易ではありませんが、先進国でこうした動きが出てきたことは、大きなうねりを予感させます。法人課税だけでなく、今後の税制全体にどのような変化が生じるのか、見守っていきたいと思います。