金曜コラム「文章、プレゼンの基礎」第25回:参考文献で分かる「バランス感覚」
私が専門とする経済学の分野では、賛否両論分かれるテーマがあります。例えば、「公平か競争か」というものです。公平を重視しすぎると成長が不十分になってしまうのですが、競争を重視した成長では格差が拡大してしまいます。どちらにもメリットとデメリットがある問題に関して、どちらの方を支持するかということが問われるのです。もちろん、こうしたテーマを文章やプレゼンテーションで表現する場合は、自分がどちらの立場なのかを明確にしなければなりません。
しかし、賛否両論のあるテーマは、いずれの立場にも一定の合理性はあります。要は、どちらの合理性を重視するのか、という価値観も多少含まれるかもしれません。そこで、自分の立場を明確にする際にも他方の立場の合理性をどう認識しているのかも含める必要があります。
その際に困るのは、他方の立場を完全否定してしまったり、無視することです。先のテーマで言えば、競争を重視する立場の人が公平について「確かに公平も重要だが…」と、一定の理解を示す必要があるのです。それを「公平など時代遅れで、競争の結果こそ最も公平なものだ」などと完全否定したり、「そもそも公平とは何かも明確でない」などと無視するのでは、一方的な意見と受け取られかねず、読者の賛同を得られない可能性が高いと思います。自分が一方の立場にあることを明確に支持しつつ、他方の立場にも一定の配慮をするバランス感覚が必要なのです。
それを裏づけるのが、本文の記述に加えて参考文献ではないかと思います。賛否両論が分かれるテーマは、賛成の立場の本も反対の立場の本もそれぞれあるでしょう。自分が賛成の立場であっても、反対の立場の本にもしっかりと目を通すことによって「いろいろな意見を十分に吟味した」ということが読者に伝わります。それを証明するのが、参考文献リストなのです。
ですから、参考文献リストには、自分の立場と同じ本だけを並べるのではなく、反対の立場の本もしっかりと示すことで、両方の主張を慎重に吟味したということを分かってもらえると思います。
参考文献リストは本文ではありませんが、本文の主張を支えるほどの重要性を持っていると言えるので、決しておろそかにしない方が良いでしょう。