火曜コラム「オススメ書籍」第39回:藻谷ゆかり「コロナ移住のすすめ-2020年代の生活設計」毎日新聞出版
日頃から地方創生に関心を持っているので、この本は興味深く読みました。しかも「コロナ移住」ということで、最近の東京一極集中緩和の要因がコロナにあるとすれば、これからどこまで本格化するのかを考えるうえでも大きなヒントになる本だと思います。
本書は、最近の地方移住への関心が定年後世代から若年世代に中心が移っていることに着目しています。確かに、かつての地方移住のイメージは、リタイア後の余生をゆったりと過ごすことであったように思います。逆に、若年世代の地方移住は、言葉は良くないですが「都落ち」など、大都市での仕事や生活に疲れた人の逃げ道のようなマイナスイメージが強く、私も首都圏から福井県に就職のため移住した際はこうしたことを言われました。
今は、まったく様相が変わったようです。もちろん良い傾向だと思います。その要因は、次の3つが指摘されています。
①メンバーシップ型からジョブ型へ
②専業から複業へ(兼業農家や共働きも同じスタイル)
③所有欲求から存在欲求へ
時系列的には③→②→①の順に起きていると思いますが、特にコロナ移住を後押ししている(しそうな)要素は①でしょう。ジョブ型雇用への切り替えはテレワーク普及のカギになっているだけでなく、日本型の終身雇用が変わっていくなかで進んでいくと考えられています(同時に、②も進むでしょう)。
したがって、コロナ移住とはコロナがきっかけとなっているわけですが、コロナの収束(ウィズコロナ)とともに移住も収束するのではなく、コロナが地方移住を後押しし、これからの大きな流れになる、と捉える必要があるでしょう。
同時に、それは移住のパターンも大きく変えることになります。本書では、移住の実例を20挙げていて、移住パターンの多様性を以下の通り5つに整理しています。
①Iターン移住して複業する4事例
②Iターン移住して同じ仕事をする3事例
③Iターン移住して起業する4事例
④決まった地域に移住して、同じ仕事をする3事例
⑤Uターン移住して新しい仕事をする6事例
地方移住の加速は地方にとって歓迎すべきことですが、地方における人口獲得の手段として雇用の確保が重視されてきました。しかし、「雇用」と一口に言っても従来型の工場誘致では上記の整理に必ずしも合致しないのではないでしょうか。つまり、受け入れる側の地方においても、受け皿づくりのあり方を変えていかなければならないのではないかと思います。
そして、移住も1回限りではありません。かつてのような新卒一括採用+終身雇用が崩れてくると、いつでも仕事を変えたり加えたりして、そのたびに拠点も変化することになります。地方圏では進学・就職を機に若者が大都市圏へ大量に流出していて、それを食い止める施策に重点を置いています。しかし、いつでも仕事が変わる環境になれば、30代・40代・50代あるいは60代以上でも移住の可能性が出てくるので、これからはあらゆる世代に仕事と移住の機会を提供することが求められてくると思います。
本書は、コロナを大きなきっかけとしているものの、これからの地方移住のあり方を考えるため非常に具体的な内容を盛り込んだ、おススメの本です。