火曜コラム「オススメ書籍」第48回:平野貞夫「衆議院事務局-国会の深奥部に隠された最強機関」白秋社
タイトルで紹介されている機関は、失礼ながらスポットが当たりにくい組織という印象があるので、どんなことをしているのかあまり知られていないように思います。私は日頃、公務員志望の学生に講義などをしているので、この本を読めば国家公務員の仕事のを知る参考になるかもしれないという「どちらかと言えば軽い気持ち」で手に取りました。
しかし、内容は当初のイメージと大きく異なるものでした。むしろ、政治や政治家のリアルな検証を、ドラマティックな筆致で臨場感豊かに描いたもので、ハラハラドキドキしながら読みました。
戦後の吉田茂内閣から湾岸戦争まで日本の政治をめぐる大きな出来事の中で、政治家や政党がどのように動いたのか、そして、正常な国会運営のために政治家だけでなく衆議院事務局がいかに深く関わったかを描いています。
特に強調されているのは、自民党の憲法違反を衆議院事務局が食い止めたことです。正確には2勝1敗なので1度は失敗しているのですが、「憲法の番人」を自負していることが成果をあげたのではないかと思います。
そして、それぞれの項目の中で、現在の安倍長期政権や菅政権の歪みに結びつけていることも印象深いです。安倍政権の暴走を事務局が止められないことを歯がゆく思い、自ら告発状を提出したことにも触れています。
単に歴史の紹介にとどまるのではなく、かつての紆余曲折や軌道修正が現代に活かされていないことに、筆者は大きな憤りをもって述べています。これは与党だけの問題ではなく野党の姿勢も関係しているようです。筆者は衆議院事務局に長年勤めただけでなく、国会議員も経験されています。両方の立場から、現在の状況を嘆いておられるのだと思います。
本書を読み、衆議院事務局への見方が大きく変わりました。民主主義を守るために、「事務局」という言葉だけでは測ることのできない重要な使命を負っています。日頃はスポットライトがなかなか当たらない機関だけに、なおさらこのことを痛感した次第です。
なお、こうした本を読むと、公務員へのモチベーションが上がる人と下がる人がいると思います。「公務員は国(地方)を守る重要な使命を持っている!」と感じる人は前者で、「公務員はこんなに面倒でややこしいのか!」
と感じる人は後者でしょう。その意味で、この本は公務員になろうか迷っている人にとって、自分の気持ちを試すために読んでみるのが良いかもしれません。
ただ、迷っている人ほど後者の気持ちになりやすいとも思いますので、むしろ読まない方が良い場合もあると思います(私もそうでしたが、使命感を持つのは公務員になってからでも十分です)。公務員志望の方には「ぜひ読んでください!」と手放しにススメられるわけではありませんが、公務員の仕事をいろいろ知ったうえで、さらに知りたい場合に読んでみてはいかがでしょうか。