日曜コラム「マイ・オピニオン」第49回:「リモート普及で地方に好機」は果たして本当か
新型コロナウィルスの蔓延で、東京では緊急事態宣言が月末まで出されているところです。在宅勤務やワーケーションのメリットやデメリットなども議論されていて、東京への人口流入も昨年から変化が見られています。一方で「緩み」や「自粛疲れ」とも言われていて、人の動きも思ったより抑えられていないと報道されています。
新型コロナウィルスの収束を願うことは全世界の願いだと思いますが、「新しい生活様式」として収束後にも残るものはありそうです。特に、在宅勤務が普及すれば東京一極集中が緩和され、地方の人口流出に歯止めがかかると期待されているようです。
確かに、在宅勤務が広がれば東京に暮らさなければならない理由はかなり減ります。通勤ラッシュによる体力の消耗は生産性を低下させ、貴重な時間を奪うことにもなるので、通勤が不要になることは好ましいでしょう。また、地方は物価が低く広い住宅を持てるので、生活水準も上がるのではないでしょうか。在宅勤務が広がり、東京の企業に在籍したまま地方に移住することも可能になってくれば、移住のニーズがさらに高まると思います。
しかし、それが地方にとってチャンスとなるかどうかは別問題だと思います。なぜならば、在宅勤務の場所として地方を選ぶだけでは単に住居の場所に過ぎないからです。もちろん居住に必要な経済活動は地方で行うことになるため、地方における消費や納税に結びつくでしょう。
しかし、さらに大切なのは地方におけるコミュニティや文化の維持・発展・継承ではないでしょうか。折しも地方創生では「関係人口」という概念が新たに提起されました(ただしコロナ前です)。これは、定住人口だけで地方創生を進めるのではなく定住していなくても何らかの関係を持つことで地方創生に結びつく、という考えに基づくと思います。もちろん定住人口が重要であることは間違いないのですが、なかなか成果が上がらないことや、定住に至るまでの段階や定住以外の成果を捉えることを想定して取り入れられたものと言えるでしょう。
ところが、関係人口が提起された後に新型コロナウィルスが蔓延し、状況が大きく変わりました。そして、上記で述べたような東京一極集中の変化や在宅勤務の普及が見られるようになったのです。そのため、地方は再び定住人口の獲得に期待を寄せるようになったように見えます。
しかしながら、それは定住人口の獲得にとどまり、逆に地方との関係性構築があまり意識されていないのではないか、と思えるのです。そもそも在宅勤務の普及がきっかけとなっているので、地方との関係は単なる居住地というだけになりかねません。もちろん住みよさや愛着なども居住地の選択に影響してくるでしょうが、新しい生活様式の下でどこまで地域との関係性を築いていくのかが十分に意識されていないように見えます。
関係人口では「関係を徐々に深めた先に定住に結びつく」というルートになっていますが、最近の状況は「まず定住してほしい」あるいは「定住を決めもらっててから関係を深めていく」というルートになっているからだと思います。つまり、新型コロナ収束後の「新しい生活様式」だけでなく、その先にある「新しい移住スタイル」を地方が打ち出していくことで、新型コロナ収束後の地方創生が進展していくのではないでしょうか。
地方創生が第2期の段階を迎えていますが、上記の点を踏まえて、早めに第3期の構想を地方が自ら形成していく必要があるように思います。