論文の技法:固めてから書くか、書いてから固めるか
レポートや卒業論文には、文字数と期限が必ずある。それは絶対に守らなければならない。膨大な文字数の原稿を書くには、適切な進捗管理が欠かせない。
期限が近づき、文章の形ができていないと、当然焦る。そうならないようにるための方法として、固めてから書くか、書いてから固めるか、自分がどちらのスタイルであるかを見きわめてほしい。
ここでは、レポートや卒業論文を書く流れとして、構想や展開を準備してから文章にすることが前提である(なので、何も準備せずにいきなり立派な長文を書ける天才の方はこの先を読む必要はありません)。ただし、いくらしっかり準備しても、構想から文章にしていく時に、必ずしもスムーズにいくとは限らない。むしろ、文章の段階で構想とは異なる展開に変えたり、場合によっては結論の見直しが必要になったりすることもある。
なぜならば、文章にすると前後関係をより意識する必要が出てきて、構想の段階で見落としていたことが浮かび上がってくるからである。例えば、構想では「A→C」という流れを想定していたが、いざ書いてみると「A→B→C」と、間にBを入れなければつながらない、ということが分かることがある。それだけならばBを追加するだけで良いが、場合によっては、たとえBを入れたとしても次はCではなくCでなければつながらない(あるいは、Cの方がより自然につながる)、ということが起こる。後者の場合、構想のとおり流れが作れなくなり、それが積み重なっていくと結論を変えざるを得ない、ということになる。書いてみたら構想とは全然違う文章になった、ということが起こりうる。
ただし、これは「準備不足」と責めるべきものではない。見直しは、むしろ自然なこと、いや必要なことでもある。
そこで、タイトルのような2つのスタイルに分けられる。固めてから書くスタイルは、十分に準備をしてから書くこと。文章ができるのはかなり遅いが、構想の段階で前後関係をしっかり作っておく(=先に固める)ので、書き始めれば早いし、出来た後の見直しも少なくて済む。結論まで変わることはほとんどないだろう。一方、書いてから固めるスタイルは、準備は少なめで書き進め、後からどんどん直していくこと(=後で固める)。早めに文章ができるが大きな見直しが必要になることもあり、場合によってはせっかく書いたものが無駄になるなど手間もかかる。
イメージとして、提出期限が30日後の場合、固めてから書くスタイルは構想と準備に20日かけ、7日で書いて残りの3日で最終チェック、書いてから固めるスタイルはこれらが10日、10日、10日になる。クオリティはさておき、一通り文章ができているのは、前者が期限3日前で後者が10日前となる。後者の方が安心感、気持ちに余裕が出る。
このように、構想や展開の準備をどのくらいしっかりしてから書く作業に移行するかによって、大きく2つのスタイルに分けられる。どちらが良いかは、文章のテーマやその人の考え方、習熟度によるだろう。どちらが絶対に良くて、どちらが絶対に悪い、ということはない。好みの問題に近いかもしれない。
私は後者のスタイルで書くことが多い。とにかくいったん文章を最後まで通して書き、その後でどんどん修正していく。その方が手間はかかるかもしれないが、文章が早い段階で出来ているのは(たとえレベルが不十分でも)気持ちは楽になる。その方が期限に追われている時も精神衛生上良いからだ。結論が変わることもあるが、それを楽しむくらいの気持ちを持っている(それが研究者として好ましいことかどうかは分からないが)。
おかげで、今は慣れてきて直すことも減ってきた。皆さんも、どちらが自分に合う方法か考えて、どちらでも良いから書くスタイルを確立してほしい。