火曜コラム「オススメ書籍」第2回:諸富徹著『人口減少時代の都市-成熟型のまちづくりへ』中公新書
先週に引き続き、中公新書からの紹介である。先週の書籍は地方の人口減少のみに着目し、消滅可能性の危機を訴えたものだが、本書は都市を取りまく条件が「経済成長・人口増加・地価上昇→右肩上がりの成長」から「低成長・人口減少・地価下落→縮退」へと3つの点で反転したことに着目し、都市のあり方も成長型から成熟型へと転換しなければならないことを主張する。
また、人口減少は必ずしも悪いことばかりではない、とも述べる。人口減少は生産や消費活動の縮小をもたらすので、経済のフローの面ではマイナスとなる。しかし、土地やインフラ・環境などストックの面では混雑が緩和されるから、むしろプラスとなる面もある。 このプラスの部分を最大化するのが本書で紹介する「縮退戦略」である、とも言えるだろう。
問題は、拡大から縮小へと転換しても財源が必要になることである。人口減少や高齢化は税収を減少させる可能性が高い。そこで新たな財源をどのように獲得するかが成長型の時期よりも大きな課題となる。本書では、明治期における都市社会主義や戦後における革新都政、神戸市都市経営の成果を引き継ぎ、ドイツのシュタットベルケを導入することを提案している。
シュタットベルケとは、自治体が出資する公益事業体のことで、「都市公社」とも呼ばれる。インフラの建設と維持管理を独立採算で手がけ、その黒字部分を市民に還元している。 著者は日本でもエネルギー事業(地域新電力)にシュタットベルケを取り入れ、 エネルギーの地産地消による消費の域内循環や高齢者の見守りなど多様なサービスへの展開を提言している。
この提案は3つの意味で示唆に富む。第1に、「行政は利潤を追求しない」という前提からの脱却である。もちろん独占事業体だからといって高額な料金を利用者に課すことはできないが、公共ならではのサービスを組み合わせて付加価値を高め、適正な料金を設定した結果として利潤が生じることは何ら問題はないのではないか。原価主義にとらわれて低い料金にしてしまうと、利用者個人が利得を得ることになる。それも悪いことではないが、より望ましいのは適切な料金を設定して、得た利潤を社会的に還元することの方であろう。
第2に、料金収入は税よりも魅力的な収入源であることである。 市町村の主な税収である住民税や固定資産税は、 住民や企業が居住や雇用・営業などの経済活動をした結果、その一部が税制に基づく税収となる。これに対して料金収入は事業体の利潤がそのまま収入となる。財源としての魅力は料金収入の方が圧倒的に大きいのではないか。自治体の財政健全化を自主財源で行う必要があるとすれば、それは税収の拡大だけではない。
第3に、税よりも住民の負担感が小さいことである。料金収入はサービスの享受による相応の対価であること、国による増税は納税者の抵抗が大きく実現の不確実性が大きいこと、料金収入によって税負担の増加が緩和される可能性があることなどを考えると、料金収入の方が獲得しやすいのではないか。
では、どの分野にシュタットベルケを取り入れることができるのか。著者はエネルギー分野を挙げているが、私は別の分野にも大きな可能性があると考える。私の考えは別の機会(本当は著書を出したい)に述べたいと思う。
いずれにしても、本書は 「低成長・人口減少・地価下落→縮退」という新たな時代背景のなかで、財源の確保も含めて都市のあり方を構想したもので、興味深い内容が盛り込まれている。多くの方にオススメしたい。