水曜コラム「公務員の学び」第6回:「コスト」より「投資」を重視する

 私は財政部門に6年間所属し、予算編成業務にかかわってきた。予算編成は1年間の収入(税金・地方交付税・補助金・地方債等)を見積もり、それを多様な事務事業に配分する作業である。毎年の収入には限りがあり、支出の要請は大きくなってくる。そうすると、予算編成は必然的に支出の要請を抑えていく作業にならざるをえない(おかげで、私は私生活でも値切り上手になった)。

 そして、ここに予算編成の弱点があるように思われる。それは、1年間という短い単位で、支出をいかに抑えるかが重視されてしまうことである。端的に言えば、とにかく今年のやりくりを何とか乗り切ることが求められるのである。支出を抑えられる項目を見つけるにはポイントがあり、1つ1つ説明するわけにもいかないが、少なくとも抑えられるものはなんでも抑えたいという思考回路になる。

 そのため、その経費が将来、どのようなメリットやデメリットをもたらすかをあまり考えることなく、あらゆるものを「今年は抑えられないか」という視点で判断してしまう。極端に言えば、予算がついたものは抑えられなかったもの、お金を使わざるを得ないと判断したものとなる。支出を「コスト」でしか見られなくなってしまうのである。

 その端的なのは、公共施設の建設ではないか。補助金や地方債によって大規模な施設を整備できるにもかかわらず、その年の負担が軽減される。そのため、コストが低いと判断され、建設が促進されるのである。しかし、施設が増えれば将来、維持管理費も膨らむのだが、そのことは今年の問題ではないから意識されることは少ない。

 また、観光客を呼び込むイベントの実施なども似ている。イベントが将来の観光客増加にどうつながるかが重要なのだが、そうした考えではなく、今年の経費を抑えることに主眼が置かれる。その結果、中途半端なイベントとなってしまうことが多い。

 これは私が勤めていた自治体でそうだったということではない。多くの自治体職員の方々から話を聞いたうえでの私の認識である。今年限りの「コスト」に気を取られ、長期的な効果を獲得する「投資」の視点が軽んじられる。特に財政部局がそうした傾向にあるようだが、いかんせん予算編成権という強力な権限を持っているので、所管部署も従わざるをえないのではないか。

 予算はもちろん重要だ。だが、それは形式は単年度でも中身は長期を見据えたものが入っていなければならない。そのような予算を編成するには、担当部局も財政部局も一体となって、長期の視点と投資の発想を重視する必要がある。

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