土曜コラム「今週のニュース」第13回:国の歳出を正確に比較することがなぜ重要なのか?
今週も多くのニュースにコメントをしましたが、その中で、今日は以下のニュースを改めて取り上げることにします。
「国防費より男女平等に多くの税金」は本当か? 拡散した「男女共同参画費8兆円」の情報はミスリード
このニュースに関して、私は次のようにコメントをしました。
関連経費も含めた計上そのものに問題はないし、こうした比較にも大きな意味がある。比較する際には、注意深さが必要
国防費の予算は5.3兆円と紹介されています。 これは、1,100ページ以上に及ぶ国の令和2年度予算書のなかから、防衛省所管の歳出額の合計5,313,345,107千円のことを指していると思います。これに対して、男女共同参画費は内閣府男女共同参画局が作成した資料「令和元年度男女共同参画基本計画関係予算額(総括表)」による平成30年度当初予算額の合計8,389,655百万円のことを指していると思います。年度が違うことはさておき(後者の資料がやや古いものしかない、ということが理由と考えられます)、どちらも政府が作成した資料に基づく数字で、間違えて引用したものではありません。
しかし、国防費は防衛省が所管する歳出合計額であるのに対して、男女共同参画費は内閣府が所管する歳出合計額ではなく、他の省庁が所管する歳出も含まれています。ちなみに内閣府が所管する男女共同参画社会形成促進費は、令和2年度976,810千円に過ぎません。したがって、所管する歳出だけを単純に比較すれば、むしろ国防費の方が圧倒的に大きいことになります(予算額は要求額ベース)。
つまり、8.3兆円にのぼる男女共同参画費のうち、他の省庁が所管する歳出が大半を占めているのです。なお、記事によると、介護給付費国庫負担金等や児童手当制度、子どものための教育・保育給付など、良質な障害福祉サービスの確保で全体の7割以上を占めているだけでなく、防衛省が所管する歳出も一部含まれているようです。
男女共同参画費がこのように他の省庁にまたがるのは、他の省庁が所管する歳出にも男女共同参画に関連するものが多いからです。介護や子育て支援などは、介護サービスを受ける人々や子どものために必要ですが、女性の介護や子育てに対する負担も軽減し、男女共同参画に寄与します。このように、男女共同参画がメインの目的ではないにせよ一定の効果が期待される場合に関係予算としてカウントして、男女共同参画局が作成しているのだと思います。
もちろん、こうしたカウントにも意味はあります。なぜならば、限られた税金を有効に活用するため、他の省庁と二重行政にならないようにしたり、類似した政策をパッケージ化して相乗効果を得たり、積極性をアピールしたりできるからです。特に男女共同参画という分野はこうした誘因を強く持っていると言えます。そこで関係予算という資料も作られていると思います。
一方、防衛関係の予算は関連するもの(外交など)を含めて計算することもできるでしょう。しかし、関係する部分はそれほど大きくないと思いますし、防衛という分野の性質上、あまり過剰に見られるのは別の問題もあると思います。
そのため、男女共同参画費8兆円というのは正しいのですが、防衛省が所管する国防費との比較は適切ではありません。所管経費と関係費は尺度が違うからです。キチンと比較するなら、まず所管経費での比較か関係費での比較のいずれかにすべきでしょう。
また、比較が適切ではないため「男女共同参画費が過剰だから削るべき」という意見がでてきたのも、正しいとは言えません。介護給付費国庫負担金等や児童手当制度、子どものための教育・保育給付など、良質な障害福祉サービスの確保を「男女共同参画関係費が過剰だから」という理由で削ってしまうと、介護や子育てが成り立たなくなってしまいます。
もちろん、国の歳出にはどこか無駄遣いはあるでしょうし、「〇〇の分野は削減(拡充)すべき」という意見はあると思います。男女共同参画にも不要な経費はあるかもしれません。ただし、税金であるがゆえに、意見に対して納税者の理解を得るためには比較を正確に行うことが不可欠だと思います。