火曜コラム「オススメ書籍」第25回:根本祐二「豊かな地域はどこが違うのか-地域間競争の時代」

 私が所属する東洋大学の根本教授による、地域分析の事例を豊富に収録した、大変分かりやすい本です。私も前職の福井でも、ゼミ教材として使わせていただきました。

 この本は、多数の市町村を対象に、人口コーホートを中心とした分析を行うことによって、地域の実態や課題などを明らかにしています。地域によって多様な状況にあることがよく分かります。

 本書の基本的なスタンスは主に2つあると思います。1つは、「地域の人が地域のことを最もよく知っているとは限らない」という点です。私もこれまで福井県だけでなく多くの地域で暮らしてきました。もちろん、それぞれ当時の体験や記憶、愛着があるところばかりです。その地域に住む者にしか分からなかい雰囲気もあると思います。しかし、それだけでは把握することのできない地域の実態もあるのです。地域分析を行う意味は、まさにそうしたところにあると思います。科学者や医学者といった人々が、新しい物質や成分を発見・開発する時のような粘りと喜びを、経済学を学ぶ人々も味わうことができるのが、地域分析の醍醐味ではないかと感じます。

 もう1つは、副題にあるとおり「地域間競争の激化」という点です。本書が人口コーホートの分析を中心に据えたのは、まさに地域間競争の残酷な結果が表れるのがこの人口コーホートだからです。これは、5歳ごとに区切った人口の増減を測るもので、例えば分析する市町村の14~19歳の人口と5年後の20~24歳の人口を比べます。すると、5年間でその地域・年代の人口がどのくらい増えた/減ったのかが分かります(当たり前ですが、誰でも毎年1歳上がりますし、生まれた時は0歳です)。したがって、増えていれば他の地域から人が入ってきた、減っていれば他の地域へ人が出ていったことになります。このような動きが、地域間競争の結果なのです。人が入ってくる地域は入りたい要素があり、出ていく地域は出たい要素がありますから、その優劣が競争の結果に出てきます。

 私は競争の過熱は決して好ましいことではないと思いますが、人々の移動の自由が保障されている以上、競争は起こります。そして、グローバル化によって競争もグローバルになります。好ましくなくても避けられない時代なのです。

 本書は、そのような状況を冷静に見据え、正しい処方箋を描くために客観的な分析を行い、これまで見えなかった課題を明らかにして必要な対策を打ち出していく上で、道標となるような本だと思います。

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