火曜コラム「オススメ書籍」第27回:池田利道「23区格差」中公新書ラクレ

 新型コロナの影響で東京への転入超過傾向が変わり、転出超過になっていることから「東京一極集中の時代は終わったのではないか?」などと言われています。しかし、このことの真偽はともかく、「東京一極集中」という言葉には気をつけなければならない、ということをこの本から学ぶことができました。

 「東京一極集中」という言葉での「東京」とは、どこまでの範囲を表すのでしょうか?それは、「東京23区」なのか、「東京都」なのか、「千葉県や埼玉県、神奈川県なども含む首都圏」なのか、さらに広い圏域なのか、いろいろな捉え方があると思います。一般的には、首都圏を指すものと言えるでしょう。なぜならば、ここで挙げた隣県に暮らす人の多くが東京の企業や学校に通勤・通学しているからです。つまり、東京に企業や学校が集中しているから、隣県を含め通勤・通学する人が首都圏に集中しているのだと言えます。

 では、「東京一極集中を是正する」という目標のもとに地方創生を進めているのはどこかと言えば、地方圏の自治体です。つまり、市町村や都道府県のことです。これらが地方創生に関する人口ビジョンや総合戦略を策定して、東京一極集中を是正するために(それだけが目標ではありませんが)地方創生を進めているのです。

 しかし、本書からも分かるように、東京都にある23区にもいろいろな側面があります。「格差」というタイトルで多様な側面からランキングされていますが、区ごとに「強み」「弱み」があります。それらを区の個性と考えるならば、23区は多様な個性が組み合わさって構成されていて、複合体と捉えることもできるのではないでしょうか。本書の範囲を超える話になりますが、23区を超えて隣県まで含めるならば、さらに幅広い個性を持った圏域が首都圏と言えると思います。

 私たちが暮らす場所を選ぶ際、人それぞれの好み、優先順位があるでしょう。それも個性ですから、端的に言えば東京さらには首都圏は「あらゆる個性に対応できる地域」となります。1つ1つの地域は異なる個性があるものの、それらが複合体となることで強力な人口吸収力を発揮していると言えるでしょう。

 であるとすれば、東京一極集中の是正のために奮闘している地域が、個々の自治体ごとに人口ビジョンや総合戦略を立てても太刀打ちできないのではないでしょうか。弱い方がまとまりを欠いて個々バラバラに行動するのと、強い方がまとまって総合力を高めているのでは、明らかに勝負にならないからです。

 本書は、「23区と一口に言っても多様で、格差もある」ということを言いたいと思うのですが、地方圏に暮らしてきた自分は、このことこそ一極集中の原動力になっているのではないか、と感じた次第です。

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