日曜コラム「マイ・オピニオン」第37回:男女共同参画にかかる数値目標は「行き過ぎ」か?
今週はオリンピック組織委員会会長の森喜朗氏の「女性の話は長い」という失言と、本人の謝罪会見をめぐる対応に、メディアと国民の批判が集中しました。これに関して国内外そして各界からさまざまなコメントが相次いでいます。今回は、この失言に直接的にコメントするのではなく、他の発言を通じて男女共同参画のあり方に関する自分なりの見解を述べてみたいと思います。
取り上げたいのは、「数字を追求しすぎるのは良くない」という発言です。男女共同参画の分野には多様な数値目標がありますが、代表的なものとして「男性の育児休業取得率」「政府や企業における役職ごとの女性の割合」などがあります。これらは内閣府のホームページで詳細に紹介されていますので、参考にしてください。
総じて言えるのは、数値目標の達成にはなかなか至っていない、という状況です。数値目標には期限と水準が定められていますが、期限が到来しても水準に到達していないのが現状です。さまざまな取り組みは行われているのですが、目標の突破には至っていない、というのが現実の姿ではないかと思います。
では、この状況をどう捉えればよいでしょうか。目標なのだから達成することを目指しているのであれば、未達成であることは当然問題視すべきです。なぜ達成できなかったのかを検証し、どうすれば達成できるのかを考えて次の取り組みに生かしていく必要があります。
一方、先の発言のように「数字を追求しすぎるのは良くない」ということであれば、目標が未達成であること自体はたいして問題ではなく、数値以外の部分も含めて広い視野で目指す姿をイメージし、達成できたこととできなかったことを切り分けて把握することが必要になるでしょう。数字だけにとらわれてしまうと、かえって見逃してしまう点もあるということも確かにあります。例えば、テストの点数が良い学生は学校から高く評価されますが、それだけを基準にしてしまうと他の点が見過ごされてしまうのと同じです。
では、男女共同参画では数値目標が未達成であることは、どう捉えればよいでしょうか。私は、やはり前者であろうと思います。日本はジェンダーギャップ指数が世界121位と低い状況にあります。もちろん、こうしたランキングがそもそも正しいかどうかという議論もありますし、高齢の方が当たり前のように持ってきた価値観を今さら大きく転換することも、大変だと思います(これは、今は若い人たちもこれから年齢を重ねていけば同じような経験をすると思います)。しかし、それでも世界的に日本の位置がここまで低いことは、やはり大きな問題と言えるでしょう。そこで、こうした状況を少しでも改善していくためには、従来の価値観を打ち破るだけの強い行動が必要になります。したがって、この分野における数値目標は、追求しすぎるくらいどん欲に達成を目指していく必要があると考えます。
その意味では、「数字を追求しすぎるのは良くない」面もまったくないわけではありませんが、それよりも「目標を達成できていない状況は良くない」ことの方が重大だと思います。森氏は首相まで経験された政治家なので、あらゆる分野にわたって広い視野と強いリーダーシップで政策をけん引されてきたと思います。その中には「数字を追求しすぎるのは良くない」ものも多くあったことでしょう。しかし、男女共同参画の分野に関しては少し違っていて、愚直なまでに数字を追求していった方が良いのではないかと感じました。
もちろん、こうした追求によって出てくる課題もあろうかと思います。実際、森氏が感じるような場面もあったのかもしれません。しかし、それが取り組みを後戻りさせるのではなく、すべての人が男女共同参画のあり方を考えるきっかけにしていかなければならないと思います。年齢や価値観などで違いはあるかもしれませんが、大切なのはそれを乗り越えていくことではないでしょうか。数字にこだわることで、こうした機会が増えていくと良いのではないかと思います。