論文の技法:意見を明確にする②戦略的読書

 前回の投稿に続き、今回も論文を書く際に自分の意見を明確にする方法を紹介します。それは、読書を通じていろいろなコメントを知ることです。本にも、著者の意見が明確に述べられています。しかも、その道の専門家が十分な情報収集と根拠に基づいて意見を述べています。コメントを周囲の人々やニュースからだけでなく、読書からも知ることは、自分の意見を明確にするだけでなく、その質も高めてくれます。

 しかも、本に書いてあることは引用できるので、2つのメリットがあります。1つは、引用すると文字数に含まれるので、執筆が進むことです。もう1つのメリットは、自分が選んだテーマについて「しっかり調べていますよ」とアピールできることです。

 論文にはオリジナリティが必要ですが、誰も言っていないことをドーンと打ち出せることは限られた天才だけでしょう。私たちは、すでに誰かが言ったことに少し何かを加えれば良いのです。だからこそ、誰が何を言っているのかを調べることがとても重要です。十分に調べないと、論文に「これがオリジナルな自分の意見です」と書いても「全く同じことを〇〇さんが書いている(オリジナリティがないどころか、コピペかも)」と、読む人(大学の先生など専門家)にはすぐ見抜かれてしまいます。それはオリジナリティの評価以前に、勉強不足との烙印を押されることになるでしょう。

 そこで、本を読み著者の意見を知ることが必要です。まずは、新書を3冊くらい選んでみましょう。新書の多くは、専門家による最先端の研究内容が分かりやすく書かれています。専門家もいろいろな意見を持っているので、3冊だけでも幅広い意見を知ることができます。特に、正反対の意見の本があれば、ぜひ両方とも読んでください。例えば、「地方創生」をテーマにしたいのなら、「地方消滅」(増田寛也編著、中公新書)という本が基本的文献として重要ですが、「地域は消えない」「地方消滅の罠」という正反対の本もあります。それぞれの本から、著者が「どういった点に注目しているのか」、「どのような意見を持っているのか」、「何を根拠にしているのか」などを探ってみてください。

 そして、それらの意見に対して「自分がどう思うのか」考えてみてください。自分に近いと思うものもあれば、全然違うものもあると思います。さらに、それらの意見に「なぜ自分がそう思ったのか」も考えることで、自分の意見もより明確になっています。もちろん、自分が思っていなかったような意見を知り、自分の意見が変わることもあるかもしれません。それも、自分の意見が明確になったことになります。3冊の本を読んでみるとだいたい意見がまとまってきますが、その後は他の著書にも触れてみてください(拾い読みでも構いません)。いろいろな意見を知れば知るほど、自分の意見がより明確になってきます。

 このような読書の方法は、「ツッコミ読み」とか「読み比べ」「著者との対話」などと言われるものです。高校生までの読書では、ほとんど経験したことがないと思いますが、本来は最も重要な読み方です。

 もちろん、最初から自分が専門家にツッコミできるほど明確な意見を持っている人も少ないでしょう。だからこそ、本を選ぶ時にあえて意見の異なるものにすることが重要です。賛否両論のテーマで賛成・反対それぞれの意見の本を選べば、著者同士がツッコミをしてくれることになります。それを読み比べながら、自分がどちらの意見に近いかを考えれば良いのです。

 名著『本を読む本』(講談社学術文庫、M.J.アドラー・C.V.ドーレン著、外山滋比古・槇未知子訳)には、「読書のレベル」が次のように紹介されています。
第1レベル「初級読書」
第2レベル「点検読書」
第3レベル「分析読書」
第4レベル「シントピカル読書」

 第1レベルと第2レベルは、知識を習得し、深めるための読書です。高校生まで教科書や参考書を読むのは、このレベルに当たります。第3レベルから知識を活かす段階になります。著者の伝えたいことを見つけ、それに批評を加えることです。ここで初めて、自分の意見が登場します。

 そして、第4レベルの「シントピカル読書」こそ『本を読む本』の真骨頂とも言える部分です。つまり、まさに同じテーマの本を複数読むことです。1冊の本を他の本と比較しながら読むことで立体的な理解が可能になり、自分の意見も明確になってきます。

 シントピカル読書は最も高度な読書法なので、第1~3レベルの読書を飛ばすことは不可能です。ただ、新書を3冊選んで読む方法は第1~3レベルの読書にも有効です。そこで、何度か読むことを勧めます。最初は知識を得るために読み、2回目は著者の意見を知るため、3回目は他の本と比較するために読むようにしましょう。そうすれば、徐々に読書のレベルを高めることができ、自分の意見も明確にすることができます。この場合は、2回目以降は通して読まず知りたいところをピックアップする方法でも良いと思います。

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