公務員試験の論文対策:バランス感覚

 公務員試験の論文対策として特別に意識しておきたいことがある。それは、「バランス感覚」である。

 世の中には、賛否が明確に分かれるテーマもあれば、すべての人が賛成(あるいは反対)するテーマもある。例えば、前者は原子力発電や憲法改正の必要性など、後者は税金をムダ遣いしない方策などがあるだろう。公務員試験の論文試験でも、どちらのテーマも出題される可能性がある。

 バランス感覚が特に大切なのは、前者のテーマだ。バランス感覚とは、賛否両論ある中で自分と反する立場の意見にも一定の理解と対応を示す、ということである。

  例えば、原子力発電のあり方が論文試験のテーマで、自分が賛成の立場で意見を述べたいとしよう。原子力発電には賛否両論あり、反対意見も多い。では、賛成の立場で意見を述べる論文で、反対意見をどう取り扱うべきか。

 次の4つくらいが候補になるだろう。
1 反対意見には触れない
2 反対意見の欠点を批判する
3 反対意見にも一定の合理性があることを述べ、その上で賛成意見がより合理的であることを述べる
4 反対意見にも一定の合理性があることを述べ、その要素を組み込んだ上で賛成意見を述べる

 公務員試験の論文対策として、どれが望ましいだろうか。実は、1→4は望ましくない順になっている。1は、公務員試験だけでなく通常のレポートや論文でも望ましくない。なぜならば、採点の時に「反対意見があることを知らずに勝手な意見を述べているのではないか」と疑われかねないからだ。

 2は、公務員試験ではあまり望ましくない。公務員は「全体の奉仕者」たることが求められるからだ。賛否両論あるテーマでは、公務員は賛成の立場にも反対の立場にも奉仕者である必要性がある。一方の立場を批判するだけではその立場に奉仕したことにならないから、公務員の資質がないと判断される可能性がある (もちろん、反対意見の中にも自分勝手で根拠のない意見はある。そこまで奉仕する必要はないし、論文で取り上げる必要(文字数の余裕)もない)。

 どのような立場であれ、その人々も国民(主権者)・住民であり、納税者である。もちろん1人ひとりの立場を聞いていたのでは仕事にならないが、一定の規模で支持されている立場は、奉仕者として無視することはできない。

 したがって、3や4が望ましいと言える。特に、具体的な政策提案まで示す論文の場合には、4まで組み込むことができればベストだ。実際の政策でも、原子力発電の方向性は「可能な限り減らしつつ必要な規模を確保する」というもので、賛成にも反対にも読み取れる内容である(これは政治的対応と言えるが…)。

 賛否両論のある中で全体の奉仕者たることを貫こうとすれば、このように賛成と反対の両方の立場に一定の配慮を示す必要がある。同時に、論文では自分の意見も明確にしなければならない。したがって、バランス感覚とは、賛成と反対の間でバランスをとることと、曖昧さと明確さの間でのバランスをとることの両方が必要になる。少ない文字数でこれを実現することは、かなり難しいことである。

 そこで、公務員試験の論文対策として、日頃から賛成と反対の両方の意見に触れておくことを薦めたい。例えば、新聞の社説などを読み比べると良い。同じテーマの社説でも、新聞社によって立場は大きく異なる。それを読み比べると、賛成意見の根拠と反対意見の根拠の両方が理解できる。その上で、自分の考えも作っておくと良い練習になる。また、意見の異なる書籍を読み比べるのも一法だ。ただ、時間も手間もかかるので、公務員試験の論文対策としては新聞の読み比べで十分だろう。

 なお、ここで述べたことは、あくまでも公務員試験を想定したものである。3や4の対応は、悪い言い方をすれば意見が「中途半端」「妥協」「玉虫色」になりがちである。卒業論文やレポートでは、自分の意見を明確にするために他の意見をバッサリ切ることも、かえって心地良い場合がある。したがって、3や4の対応は、あらゆる論文に該当するものではない。また、そういう意見を個人として持つべき、ということでもない。あくまでも公務員試験の論文対策として読んでもらいたい。

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