日曜コラム「マイ・オピニオン」第4回:特別定額給付金はベーシック・インカムになりうるか

 新型コロナ対策の1つとして、全国民に一律10万円を支給する「特別定額給付金」が、徐々に国民に届き始めている。当初はマイナンバーカードによるオンライン申請の混乱や「支給が遅い」といった批判が巻き起こっていたが、緊急事態宣言や自粛要請の解除等によって、ひとまず活動が戻りつつなかで、困難や批判も収まりつつあるように見える。

 そこで、 特別定額給付金を少し違った角度から捉えてみることにしたい。それは「特別定額給付金は将来のベーシック・インカムにつながるものか」ということである。

 ベーシック・インカムとは、国民が最低限の生活を送るために政府が定額の現金を支給する制度である。生活保護のように該当者が最後の手段として給付の申請をするのではなく、すべての国民に対して支給されるものである。ベーシック・インカムを試験的に導入している国もあり、将来的には日本でも導入の検討をすべきといった意見も見られる。そのため、ベーシック・インカムの導入の可否は、これからますます活発に議論されると思われる。

 そこで、今回の特別定額給付金を ベーシック・インカムと比較してみることにしたい。まず、両者の共通点である。全国民に一律10万円という点は、ベーシック・インカムの特徴と共通している。個人単位で経済状態を調べる生活保護とは異なることは明らかだ(給付金をめぐり、当初は所得減少の要件を付けて対象世帯に30万円を給付する形であった。しかし、急転直下の変更で現在の国民一律給付となった。つまり、生活保護的な思想からベーシック・インカム的な思想に変化したとも言える)。

 また、マイナンバーカードを使ったオンライン申請は混乱こそしたものの、銀行口座への紐付けなども検討されており、それが実現すれば、マイナンバーカードによるベーシック・インカムの導入にも使える可能性がある。これらの点で、今回の特別定額給付金は将来のベーシック・インカムにつながる部分がある。

 一方、特別定額給付金がベーシック・インカムと決定的に異なる点もある。それは財源の確保である。 特別定額給付金は、新型コロナへの対応つまり緊急措置として支給されるものであり、赤字国債で賄うのはやむを得ない。しかし、ベーシック・インカムは緊急措置ではなく定期的な支給であるから、制度設計の際には財源確保策も合わせて考える必要がある。日本の財政事情を考えれば、大規模な支出を要すると思われるベーシック・インカムの導入は大掛かりな増税や類似の歳出削減など、極めて多くの課題を解決しなければならない(その困難は、9月入学をめぐるよりもはるかに大きいと想像する)。

 以上の点を整理すると、特別定額給付金とベーシック・インカムには、共通点と相違点の双方がある。相違点があまりにも大きいことは確かなのであるが、今後、ベーシック・インカムの議論がもう少し本格化し、実現に向けた国民的合意が形成されれば(私個人は、ベーシック・インカムの導入にはまだ賛否が固まっていない)今回の特別定額給付金で得られた経験が活かされ、円滑に導入されるのではないだろうか。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。