日曜コラム「マイ・オピニオン」第5回:新型コロナの蔓延は東京一極集中を食い止めるか

 新型コロナウィルスの蔓延で緊急事態宣言が発出されていた間、外出自粛が要請されたことで企業や行政機関ではテレワークが導入された。その後、宣言や外出自粛の要請も解除され、徐々に人の動きも戻りつつある。私が聞いた限りでは、現在はテレワークかなり縮小あるいはなくなったところが大半であった。

 ただし、我々の生活が完全に元に戻ったわけではなく、「新しい生活様式」の下に、ソーシャル・ディスタンスの確保や大規模イベントの延期など「三密」の回避が求められており、一部の企業でも引き続きテレワークを取り入れたり、テレワークを新しい働き方に位置づけるケースも見られる。

 こうした動きを受けて、「テレワークの普及が東京一極集中を緩和するのではないか」との期待が高まっている。通勤電車の密や体力面での負担を回避できるだけでなく、家庭の事情に寄り添える労働環境が実現する。もちろん、すべての仕事がテレワークで可能というわけではないし、オフィスが不可欠な仕事もある。しかし、これまでのように「仕事はオフィスで全員集まってするもの」という固定観念が崩れ、テレワークを取り入れることへの抵抗感が大きく下がったのではないだろうか。したがって、東京を常時仕事の場としなくても良くなり、一極集中が緩和されるのではないか、と期待されているのである。今日はこの点について簡単に考察してみたい。

 まず、東京一極集中には、企業(本社機能)の集中と人材(若者)の集中という2つの面がある。前者に関しては、新型コロナとの関係は薄いと思われる。なぜならば、企業間の取引等はテレワークでまったくできないわけではないが、対面でないと困難な部分も大きいと考えられるからである。したがって、企業(本社機能)の東京一極集中は今後も変わらないだろう。

 では、人材の集中は抑制されるだろうか。テレワークの導入によって、確かに集中の必要性は低下する。ただし、これもそれほど大きくないのではないか。なぜならば、テレワークの導入が完全にはできないと考えられるからである。これまで月曜日から金曜日までずっと通勤する必要になったのが、何回かテレワークで仕事ができるようになるだけで、どこかでオフィスに行かなければならないと予想される。そうすると、通勤頻度が減るとしても必要なくなるわけではなく、オフィスに通うことのできる郊外の居住にとどまるであろう。

 なお、これまで、大都市圏への人の流れは景気と強い関係があった。高度経済成長期に地方圏から三大都市圏への大規模な人の流出があり、その後オイルショックでいったんおさまった。その後、バブル景気に突入して再び流出が生じ、バブル崩壊でおさまった。その後、長期の緩やかな経済成長で、また流出が起きている。今回の新型コロナはリーマンショック以上の経済的影響が懸念されている。そのため、これから東京一極集中の緩和が起こるとすれば、仕事形態の変化というよりも、景気の後退による方が大きいのではないか。

 ただし、これから起きるポスト(ウィズ)コロナの時代は、人口減少・地方創生時代を迎えて初めての集中緩和の流れとなる。これまでは、東京一極集中の大きな流れに逆らう力が必要であったが(それだけの力を発揮できず、集中を緩和できなかったともいえる)、これからは大きな流れが変わるので、これを利用・加速する方策が必要となるだろう。第2期地方創生が国と地方でスタートしたが、その後に大きな流れが変わったことから、地方創生のあり方も早めに見直した方が良いかもしれない。

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