火曜コラム「オススメ書籍」第12回:井上武史著「原子力発電と地域資源-『依存度低減』と『地方創生』への対応」晃洋書房
私が書いた本です。7月30日に発刊いたしました。
この本は、「シリーズ 原子力発電と地域」と題した本の3冊目になります。2014年に第1巻「原子力発電と地域政策-『国策への協力』と『自治の実践』の展開」、2015年に第2巻「原子力発電と地方財政-『財政規律』と『制度改革』の展開」を発刊して以来、5年ぶりの著書となりました。
原子力発電と地域の関係は、すでに50年以上に及んでいます。国内初の原子力発電所が運転を開始したのは1960年代で、原子力平和利用全般に広げると1950年代から関係があります。すでに発刊した2冊は、過去の経緯に焦点を当てて地域の視点から原子力発電を捉えたものになっています。立地地域の1つである福井県敦賀市に暮らし、仕事をしてきたことを踏まえ、立地地域の特徴を独自の視点から考察したものになっています。第2巻は、所属している自治体学会の研究論文賞を受賞しました。
今回発刊した第3巻は、ここ5年間の最新動向を分析するとともに、視点を未来に移して今後の関係のあり方を述べたものです。震災と原発事故以降、エネルギー政策は原子力発電への「依存度低減」という形に変化し、また、地域をめぐる情勢として「地方創生」が進められてきました。
とりわけ、地方創生の視点で立地地域を捉えると、いわゆる「消滅可能性」は、立地地域の方が高い状況にあることが明らかになりました。これまでは、原子力発電所が立地していることで近隣を上回る人口増加を遂げてきたことを述べましたが、これからはその逆になる、ということです。しかも、「消滅可能性」は震災と原発事故を前提としていないので、現実はさらに深刻な状況になることも予想されます(第2章)。
こうした動向の変化を踏まえて、原子力発電と地域の関係は「縮小・転換期」という新たな時代に入ると考え、地域にとって原子力発電を「地域資源」ととらえる必要があると述べています。もちろん、原子力発電所は引き続き地域経済や地方財政を支える存在であり続けます。すなわち、地域にとっての「ベース」となります。しかし、それが縮小していく中で新たに「地域資源」と位置づけ、これまで想定していなかった新しい分野への活用を図る「水平展開」を進めることが、立地地域にとって必要な視点と考えています。そこで、本書のキーワードを「ベース」「地域資源」「水平展開」の3つとしました(第5章)。
このように、本書はこれまでにない視点を取り入れていますが、本書が目指していることはこれまでの2冊と同じです。それは、「原子力発電と地域の関係を捉えることで、国策としての原子力政策の進展に寄与すること」「原子力政策の最後の課題とも言える高レベル放射性廃棄物最終処分地の選定に寄与すること」です。前著同様に、本書でもこの点に言及しており、「シリーズ」としての一貫性を保っています。
ぜひ、多くの方にご覧いただけると幸いです。