火曜コラム「オススメ書籍」第16回:市村英彦・岡崎哲二・佐藤泰裕・松井彰彦編「経済学を味わう-東大1、2年生に大人気の授業」日本評論社

 テレビで「東大王」などの番組が大人気で(大ヒット中のドラマ「半沢直樹」の後にも、東大受験をドラマ化した「ドラゴン桜2」が放送予定でした)、相変わらず東大ブランドは大きな価値があると感じています。この本も副題に「東大」の名前が入っていて、学術書ですがよく売れているようです。経済学を学ぶ身としても、東大でどのような授業が行われているのか、とても気になります。逆に言えば、本書は東大生でなくても東大の授業が体験できるので、誰にでも興味のわく本ではないかと思います。

 大学の授業は90分×15コマあるのですが、本書は12章で構成されていて、ほぼ大学の講義がそのまま収録されていると見てよいでしょう。「現代経済理論」という名前の講義で、経済学を専門とする先生方がそれぞれの分野の最前線を紹介するオムニバス講義の形となっています。一口に経済学といっても専門分野は細かく分かれていて「公共経済学」「計量経済学」「国際経済学」などがあり、本書でも章ごとにそれぞれの紹介となっています。

 経済学部に所属すればこれらの経済学にそれぞれ講義名称が付けられ、15コマ学ぶ形になります。そこで、この本はそれぞれの経済学の分野の導入部分ということになります。経済学部以外の学生にも経済学の一端を幅広く学んでもらうことと、経済学部に進む学生にもそれぞれの分野を一通りつかんでもらうという目的があると思います。しかし、経済学はそれぞれの分野で理論が構築されていて、理論ばかりを学んでも無味乾燥な内容になってしまいます。経済学を学んでも経済が分からない、ということがよく起こってしまいます。

 そこで、この本は身近な事例を工夫して織り込み、それぞれの分野の最前線の内容を身近なテーマとして学べる形になっています。このことが、本書のタイトル「経済学を味わう」に現れています。特に、最初の章はゲーム理論の紹介なのですが、 身近な事例として東大生に最も重要な「進学選択制度」を題材としている点が示唆に富んでいました。

 多くの大学の授業では、身近な題材を取り入れる工夫は行われています。しかし、その大半は社会に出てから身近に感じるものが多くなりがちで、学生の時期にそうした題材のことを知っていても、深く考えるようなものではありません。もちろん教員にとっては身近な題材ですし、学生もいずれ深く考えなければならない時期が来るので、それも決して不要ということではありません。しかし、授業を受ける学生が、その時点で高い関心を持っている題材とは限らないのです。学業だけでなく、サークル、アルバイト、レクリエーション、就職さまざまな活動を行っていて、教員が置かれた状況とは大きく異なっています。そうした意味で、「進学選択制度」を題材としたのは興味深く、自分もそうした題材がないか考えたいと思いました。

 もちろん、本書の読者層は学生だけでなく社会人を多く学び直しの意味で読む人も多いと思います。そういう人にとっては、社会の題材も豊富に紹介されていますので、それらを踏まえて本格的に経済学を学び直そうという思いが生まれるのではないでしょうか。それぞれの章末に「次のステップに向けて」と題して、より発展的な学習のための参考文献が紹介されているので、大いに活用したいところです。

 「大学で学んだことは社会に出ても役に立たない」と言われることが多くあります。しかし、決してそんなことはありません。私は、大学では経済学を学ぶ機会がありませんでしたが、就職してから大学院で経済学を学ぶ機会に恵まれました。社会に出て仕事に対するさまざまな問題意識を持てたことが、大学院で初めて経済学を学ぶ上で大きく役立ちました。仕事の問題を解決するという目的があって、経済学を学べたことが良かったと思います。大学生も社会人も、自分が解決したい問題を持つことで役に立つ学び方ができるのではないでしょうか。その意味で、この本は学生にも社会人にも有益ではないかと思います。

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