土曜コラム(日曜日掲載)「今週のニュース」第19回:省庁の押印廃止について

今週も多くのニュースにコメントをしましたが、今回は次のニュースを改めて取りあげたいと思います。

 河野氏、「法令上必要」押印も省庁に再度検討求める 廃止見通しは96%に

 このニュースについて、私は次のようにコメントをしました。

 法令の必要性は国会で審議すること。省庁は法改正を国会に提案すれば良い。

 まず、国家公務員は行政機関であると同時に、法案を国会に提出する内閣の補助機関でもあります。もちろん、最終的に法律を定めるのは立法機関としての国会ですが、成立した法律の多くは内閣が提出したものです。したがって、実質的には行政機関が法律の形成に大きく関わっている、と言っても良いでしょう。そのため、ニュースにあるように「法令上必要」という理由で押印を廃止できないということは、自分たちが作った法令を改める気持ちがない、ということを表明しているとも言え、「やる気がない」と捉えられてしまうのではないでしょうか。

 行政機関は法令を変えることのできる立場にあります。こうした社会情勢のなかで、押印の廃止が強く要請されているのであれば、それに応えることが役割として求められると思います。

 ただし、地方自治体の場合は、やや状況が異なります。地方自治体は条例を定めることができますが、「法令の範囲内」とされているので、法令で必要とされている押印を廃止することまでは難しいです。したがって「法令上必要」という理由で押印が廃止ができないということは、自分たちで法令を変えることができない以上、地方自治体の場合ではありえると思います。

 しかしながら、これまで法令の制定や改正に関して地方自治体が関わってきたケースもあります。例えば、公害行政などは地方が独自に厳しい環境基準を定めたりして、国の消極的な対応に影響を与えたとも言われています。したがって、地方自治体が積極的に可能な範囲で押印を廃止すれば、国もそれに追随する可能性はあると思います。地方自治体には、そうした役割を期待したいと思います。

 一方で、押印を廃止すれば手続きが簡略化されるかといえば必ずしもそうとは言い切れません。特に、最近は本人確認が厳しくなっています。身分証明の書類として、運転免許証だけではなくマイナンバーカードや保険証など複数の証明書を提示してようやく本人確認ができるケースが多くなっています。これは行政機関への申請だけではありません。これまでは押印だけで申請ができたのが、廃止によって別の手間が加わるのであれば、全体として手間が軽減されるとは限らないかもしれません 。

 もちろん本人確認は重要なので、手間が増えることは良いと思いますが、押印の廃止によって何を実現しようとしているのかが明確になっている必要があると思います。

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