火曜コラム「オススメ書籍」第22回:苅谷剛彦「知的複眼思考法-誰でも持っている創造力のスイッチ」講談社+ α文庫

 本書は、「多くの東大生に読まれている本」として有名です。私もそのキャッチコピーに惹かれて、かなり前に購入しました。今回、ゼミ生に紹介しようと思い、久しぶりに読んでみたのでこの投稿でも取りあげたいと思います。

 「複眼思考」は、いろいろなものごとを多面的に捉えることの重要性が高まっている今日、極めて重要な姿勢です。例えば、新型コロナの蔓延で毎日の感染者数が報道されています。「東京都で200人が感染」と聞くと多いように思いますが、毎年感染が広がるインフルエンザに比べると極めて少ないです。しかし、インフルエンザの感染は報道されないのであまり深刻に見られていませんが、新型コロナは少ない人数でも報道が大き過ぎて深刻に捉えられてしまっている印象があります。ここには、未来の不安に対して人々が大きな関心を持ち、メディアの経営に関わるという背景もあるようです。

 もちろん私は「新型コロナへの対応が間違っている」とここで主張したいのではありませんが、とにかく「言われていることを鵜呑みにせず、別の角度から疑ってみる」という姿勢を常に持つことが複眼思考の入り口にあるように思います。

 高校までの教育では「正解を見つけること」が勉強でした。つまり、必ず正解があるという前提がそこにあるのです。しかし、ものごとの多くは多面性を持っていて、さまざまなな面からとらえることが大切だということは、必ず正解があるとは限らないということも表しています。1つの面から見た正解が別の面から見ると正解ではなくなる場合があるからです。いろいろな正解があるなかで、どれを選択すれば良いのかはその人の性格や価値観などが関わってくると思います。

 したがって、誰かが自分の意見として述べていることは、1つの正解かもしれませんが、唯一の正解とは限りません。しかし、その意見を述べた人は、自分の意見を正しいと認識してほしいので、唯一の正解のように述べることがあります。そのため、他の面を意図的に隠してしまうようなこともあるのです。高校までの教育では教科書に書いてあることが正解なので、読んだものを正解と捉えてしまう姿勢が身に付いてしまいます。しかし、大学に入り、社会に出ると、かえってそれではダメなのです。

 そうした意味で本書は複眼思考を身につけるための方法がいくつも提示されています。すでに大学生の2倍以上の年齢を重ねた私でも、読むたびに刺激を受けます。私が毎日ニュースのコメントをしているTwitterも、報道されている内容とは異なる面から捉えた複眼思考のコメントを心がけています。皆さんも知的複眼思考の訓練を始めるために本書を手に取り、長く活用してほしいと思います。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。