土曜コラム「今週のニュース」第24回:地域ブランドの成功は良いが、行き過ぎは…
今週も多くのニュースにコメントをしましたが、今回は次のニュースを改めて取りあげたいと思います。
このニュースについて、私は次のようにコメントをしました。
今年もカニシーズンが到来した。コロナ禍での結果がどうなるか注目される。
毎年この時期になるとカニが解禁され、初セリで高額の落札が注目されます。かつての築地市場でも、初セリでマグロが数千万円で落札されるなど、大きなニュースになっていました。その年の景気を占うような感じがします。カニもまた各地で漁が解禁され、私のふるさと福井県でも「越前ガニ」という名前で大きな話題になっています。
私は幼少期に福井県には住んでいいたのではないのですが、越前町に親の実家があり、しかも魚屋を営んでいたので年末年始の帰省のたびに越前ガニを普通に食べていました。今のように 何万円もするような ものではなく 、10月のお雑煮や おせち料理のような感覚でカニも食べていました。なので、今のように高額でなかなか食べられないというのが想像できませんでしたし、そうなっていれば当時からもっとありがたく食べていたと思います。
地域ブランドは、大きな付加価値を地域にもたらします。その意味で、越前ガニは数万円から数十万円で取引され、都会の人にとっては憧れの食材となるほどまでに価値を高めることができました。数年前からさらに「極(きわみ)」というブランドが登場し、ごく厳選された大きさや形のカニだけが名乗ることのできる最高級ブランドとして、さらに高い価格で取引されています。このように、越前ガニのブランド化は大きな成功を上げていると言えます。
なお、米も各地でブランド化の競争を繰り広げています。コシヒカリ発祥の地である福井県でも新たに「いちほまれ」が開発され、やや高価ですが大変美味しいお米です。私も時々食べていますが、他の米が食べられなくなるほど美味しいと感じます。
ただ、地域ブランドのこうした成功を喜ばしいと思う反面、残念に感じてしまうこともあります。それは、価格が高くなればなるほど普通に食べられなくなる、ということです。当たり前の宿命でもあるのですが 、地域に根づいた食材は地域の人に親しまれ、地域の人々の生活様式に浸透して育ってきたものです。価値が高くなりすぎると、当然一般家庭で食べる機会は減ってしまうので、地域の生活から離れてしまわざるをえません。地域ブランドでありながら、地域との関係が薄れてしまうのではないかと思うのです。
高級旅館でしか食べられないカニでは、他の地域との差別化も限界が出てくると思います。地域ならでは風習や作法、レシピの中にカニがあって、それが外部の方に地域特有の魅力を発揮するのではないかと思います。
その意味では「いちほまれ」も価格に見合う美味しさなのですが、食べなければ伝わってくるものではなく、現在暮らしている東京周辺の安いスーパーには並べられていません。おそらく高級品の並ぶスーパーにはあると思うのですが、それでは 東京の人々への浸透には限りが出てしまうのではないかと思います。もちろん「いちほまれ」は価値に見合うお米として高値で販売することが望ましいとは思いますが、そうであるならば一般のスーパーで安い価格帯のお米も何かあると良いのではないでしょうか。富山県や石川県のお米が並んでいる中に、福井県のコメがないのは、地元出身の人間として少々寂しく感じています。そうしたお米が開発され、浸透することによって、より高価な「いちほまれ」への認知や関心も高まってくるのではないかと思います。