水曜コラム「公務員の学び」第29回:ファクト・ファインディング
先週のコラムを少し別の角度から述べてみたいと思います。それは、現実の部分で「ファクト・ファインディング」が重要である、ということです。
それは、簡単に言えば「新たな事実の解明」ということになります。これまで人々が気づいていなかったこと、あるいは人々に誤解されてきたこと(大多数の人々が常識として無批判に受け入れてしまっているものも含む)について、事実をもって「そうではない」ということを打ち出すのです。特に、人々が思ってきたこととは逆の事実が明らかになれば、大きな意義のある発見になると思います。
私の恩師は、インパクトのあるファクト・ファインディングを得意としていました。代表的なものは「地方分散が東京集中を加速する」というものです(誰だか分かってしまいますが…) 。高度経済成長期、工場の地方分散を図ることで大都市への集中を緩和しようという政策が進められ、一定の成果を挙げたと捉えられていますが、むしろ東京大都市圏の膨張をもたらした、という事実をデータから明らかにしたものです。
「目的をもって進めた政策が、成功したと思っていたら逆の効果となっていた」という、研究でありながらドラマチックな内容になっていて、私も大いに感銘を受けました。これほど鮮やかなものは私には不可能かもしれませんが、公務員が触れる現実はまさにファクトの宝庫です。多くの人が見過ごし、誤解していることについて、仕事の体験を通じて反論するのは説得力も出ますので、発信の効果は大きいと思います。
なお、こうしたことを明らかにするには、洞察力が必要です。常に世間の雰囲気に対して疑問を持ち、通念を打破しうる事実を粘り強く模索していくことが求められます。私は仕事を離れたので現場に触れる機会は激減しましたが、市役所の先輩・同僚・後輩との何気ない会話から多くのヒントを得ることができます。それに基づいて研究を進め、論文を書くことも多いです。なんだか自分の論文ではないような気もして申し訳ないのですが、彼らは研究者ではないですし自分が共感したものだけを厳選しているので、むしろ発信してもらっていると感謝されることもあります。
いずれにしても、ファクト・ファインディングは経済学の研究で非常に大切な要素です。だからこそ、公務員が経済学を学ぶ意味も大きいのではないかと思います。