土曜コラム「今週のニュース」第29回:政治家のリーダーシップに官僚をどう組み込むか

 今週も多くのニュースにコメントをしましたが、今回は次のニュースを改めて取りあげたいと思います。

「何でも年内に」急ぐ首相 実行力誇示狙う…官僚は残業続きで悲鳴

このニュースについて、私は次のようにコメントをしました。

「スピード感ある決定と実行」は、そのための官僚機構が確立していなければならない。

 「官邸主導」という言葉があるように、首相が国の政策で強いリーダーシップを発揮していると指摘されています。もちろん、国のトップとしての首相がリーダーシップを発揮することは、当然のことと言えます。かつては「官僚主導」とも言われましたが、いくら難しい試験を突破したエリートであっても選挙で選ばれていない官僚が政策の主導権を握るという状況は、決して健全なものではありません。その意味で「官邸主導」は「官僚主導」を打破し、政治家と官僚のあるべき関係を取り戻した、と言うこともできるでしょう。

 しかし、「官邸主導」であっても、最終的に政策を実行形にして、実際に実行するのは官僚です。大きな枠組みや理念は政治家の手で生み出されるとしても、その段階では政策になっていません。具体的な政策として実行していくためには、官僚機構の中で実行するための予算や体制、法律や計画などを作成しなければならず、既存の政策との調整も必要になってきます。政策のメリットが国民に届くには、ここまで経ていなければならないので、官僚の役割も非常に重要になってきます。

 ここで考慮しなければならないのは、官邸主導が進む一方で官僚の業務負担も大きくなってきている、ということです。今後紹介していきたいと思いますが、「ブラック霞が関」という書籍も出版されましたし、新型コロナ対応等でも行政職員の激務が報道されます。そのせいか、国家公務員(総合職)の人気が低下し、若いうちに退職する職員も多いとのことです。こうした状況のすべての要因ではないにしても、官邸主導が過度に進むと状況として起こりうるものと言えるのではないかと思います。

 国の政策を強力なリーダーシップの下で実行していくためには、トップダウンで実行に至るプロセスにも目を向ける必要があります。記事によると「霞が関からは疲弊の悲鳴も漏れる」とのことですが、官僚が受け止め切れない面が出ているのではないかと感じます。人員不足や長時間の残業が避けられない場合、不要な仕事を削ったり、人を増やしたりするなどの対応もしていかなければ、疲弊が蓄積されてしまいます。その結果、ブラックな職場となり、前途有望な若手が退職したり公務員試験を避けたりする、ということになりかねません。

 仕事は、新しいことを打ち出して強力に進めることだけではなく、やめるべきことを決めることも含まれると思います。新しさを打ち出せば国民にアピールすることはできると思いますが、 全体の仕事量をコントロールしていくことも併せて進めていく必要がある、そうでなければ霞が関がますます厳しい労働環境になってしまうのではないか、と危惧しています。

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