火曜コラム「オススメ書籍」第34回:神野直彦・小西砂千夫「日本の地方財政 第2版」有斐閣

 地方財政の入門的なテキストブックで、本書は昨年11月に出版された改訂版になります。大学の講義では「地方財政論」として提供されることが一般的ですが、本書を読んで欲しい層は大学で地方財政を学ぶ方ばかりでなく、地方財政に携わる自治体職員、さらには財政部門以外の自治体職員や住民にも広がる、素晴らしい書籍です。それは、誰もが地方財政に関わっているからです。

 ただ、それだけ幅広い層におススメなのですが、読み方は多様だと思います。本書は理論や制度・歴史の解説が多く、財政の実態をリアルに伝える部分はそれほど多くありません。そこで、学生には学問の対象として本書に触れてほしいですし、自治体職員や住民には仕事や生活のなかで直面しているリアルな行政サービスがどのような背景を持っているのか学んでほしいと思います。読む目的や重点は異なりますが、幅広く対応しうる内容・構成になっています。

 また、著者は地方財政の分野で両巨頭とも言える2人の先生が書かれています。入門書でありながら、両先生の見方や思いが随所に溢れていることも大きな特徴です。よくある地方財政への誤解や地方財政の背後にある大きな動きについても触れられているので、とても刺激に満ちた内容になっています。

 特に、地方財政とはいえ国との関係がかなり深いことに改めて気づかされます。地方分権もかなり進んできているものの、それでも従来から残っている国の強力な地方への関与や制約を除くのは大きな困難があります。地域住民が地方に納税をして自治体の行政サービスを受けているわけですが、納税もサービスも国との関係が強く受益と負担の関係が依然として明確とは言えない状況です(日曜日のコラムで述べましたが、こうした点がふるさと納税の問題につながっているようにも思います)。しかし、一方では、自治体は国の一部をなしているので、全く独立の存在ではありえません。この点は地方自治の議論にかかわるものであり、より深く学ぶために本書の末尾にある参考文献等を読む必要があります。

 なお、地方財政はきわめて実践的なものです。本書は、自治体職員(財政部門に限らない)や住民にとっては、とっつきにくい点もあるかもしれませんが、誰もが納税や政策形成を通じて実際に地方財政に関わっています。理論や制度を学ぶ目的は、地方財政を通じて実際の行政サービスを良い方向に持っていくことにあります。だからこそ、自治体職員や住民など幅広い方に読んでいただきたいと思います。

 地方財政といっても47の都道府県と約1,700の市町村があり、それぞれが実践している行政サービスは膨大な数に上ります。1つ1つの行政サービスを良いものにしていくには、すべてを研究者に委ねることは限界があります。そこで、本書を単なる勉強道具とするのではなく、実践のための判断材料としてほしいと思います。その意味で、本書は実践のためにあると思いますが、そうした実践の積み重ねが新たな理論や制度に結びついて学問としても発展していくことになります。

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