金曜コラム「文章、プレゼンの基礎」第14回:原稿を読むと伝わらない、とは限らない

 新型コロナへの対応で、多くの政治家が記者会見等に頻繁に登場しています。そして、内容のみならずその話し方や伝え方も注目が集まっています。特に、菅総理大臣に対しては、こうした危機的状況下で最も重要な判断を下し国民にメッセージを発信すべき存在であるせいかもしれませんが、「原稿を読んでいるだけでは伝わらない」というような報道や印象が多く聞かれます。これに対して、アナウンサー出身の知事などは仕事の経験を生かして、言葉も明確で視線も適度に聴衆に向けられるので、原稿を読んでいる印象がほとんどないように感じます。

 私も自分自身のプレゼンで、原稿を読む事は基本的にしません。どうしても国語の授業で教科書を読んでいるような感じになってしまうので、内容が伝わりにくいと感じます(つまり自分の力不足です)。また、学生のプレゼンを聞いていても、慣れないうちは原稿があった方が安心できるようですが、やはり読んでいるだけだと誰に向かって発信しているのか分からなくなってしまう印象があります。

 しかしながら、原稿を読む事は絶対にしてはならない、ということではないと思います。例えば、スティーブ・ジョブズのスタンフォード大学での卒業式でのスピーチは、伝説のスピーチとして語り継がれていて動画も見ることができます。これをあらためて見てみると、ジョブズが原稿に時々目を落として読んでいる姿が確認できます。

 しかも、面白いことに原稿を読んでいる時でも聴衆(卒業生)は熱狂的に拍手や歓声を上げています。もちろん、スティーブ・ジョブズと言うカリスマ的人物のスピーチで、卒業式というお祝いの場で心踊る人もたくさんいたことでしょう。また、TEDなどもそうですが、アメリカのプレゼンテーションは音楽ライブのような熱狂的な雰囲気になり、日本とは違うこともあると思います。

 しかし、それだけではないと思います。やはり重要なのは、内容ではないでしょうか。話す人のパーソナリティに合った内容であること、なおかつ聴衆の興味を引き出し同感・感動できる内容であること、つまり内容が重要であって、原稿を読んでいるかどうかはその次ではないかと思います。

 私自身の経験でも、ある先生(その世界ではカリスマ的な先生)の講義を聞いていた時に、ほぼ完成された講義の原稿(シナリオ)を配布され、それを忠実に読んでいるだけ(時々アドリブあり)でした。しかし、受講生は熱心に講義を聞き、なおかつ、言うと分かっていても感心して頷いたり、笑ったりする場面も多く見られました。講義の内容ももちろん面白かったのですが、そうした講義スタイルもあるのかという気付きを得られたことも大きな収穫でした。

 2人のスピーチや講義から分かることは、原稿を読むこと自体は決して悪いことではなく、むしろ内容がしっかりしていることの方が重要だ、と言うことです。私自身も重要なプレゼンの時は一度原稿に落とし込んで何度も練習し、自分の言葉になるよう細かい調整を加えて本番に臨んでいます。もちろん現場の空気や当日の調子で完全に再現されることはありませんが、その方が結果が出ていたように思います。

 したがって、プレゼンの際は原稿を読んではいけない、ということは決してないと思います。それよりもしっかりとした内容の原稿を準備しておくことを重視した方が良いでしょう。

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