火曜コラム「オススメ書籍」第35回:片山善博「知事の真贋」文春新書

 新型コロナウイルス対策で政府の対応が問われていますが、自治体の対応も同様に注目されています。むしろ、国と地方の対応の差にも注目が集まり、国の対応を踏まえて地方が、逆に地方の対応を踏まえて国が対応している面もあって、それぞれの長への評価にもつながっているように思います。
本書は、新型コロナウイルスへの各知事の対応を通じて、何人かの知事に対する評価を行い、さらに知事とはどういった存在であるべきかを述べたものです。ちなみに、著者自身も元鳥取県知事で、総務大臣なども経験されています。知事時代の評価も高く、メディアにも多数出ておられます。現在は早稲田大学教授です。

 注目すべきは第2章かと思います。知事が発する自粛要請は法律の誤った解釈によるもので、さらに、その理由が「逐条解説」に頼ってしまう体質にあると述べています。逐条解説とは、法律の条文を分かりやすく説明するもので、著者は「当てにならない記述も紛れ込んでいて、決して鵜呑みにしない方がいい」と警告を発します。しかし、解説の内容を正解と信じ込んでしまっていることが、誤った解釈をもたらしたと著者名は見ているようです。興味深い指摘で、確かに逐条解説を謝りと思って読んだことはないので、こうした対応は起こりそうだと感じました。

 また、第3章では、何人かの知事の対応について評価しています。とりわけ東京都知事への評価は厳しいものが多く、「小池都知事は広報係長」「小池都知事の公約は真に受けない」といったことを著者は述べています。逆に、和歌山県知事への評価は大変高いです。国の通知への対応や記者会見の内容・姿勢など、いずれも賞賛しています。こうした知事の差がどこから出てくるものなのか、興味深いものです。

 第6章にも著者の思いが溢れています。それは、議会の役割です。新型コロナウイルスへの対応を迅速に行うため、条例や予算措置などを専決処分で決めた自治体が多くあります。確かに時間がない時の対応が必要になることはあるかもしれませんが、「慌てて作ったので、出来の悪い施策になっていることの方が多い。そうした懸念がある施策ほど、ちゃんと議会に諮って、大勢の議員の眼を通してチェックしてもらうべき」と述べています。その象徴として紹介されているのが、東京都の「虹のマーク」です。これを店に貼り付けるとガイドラインを遵守して新型コロナウイルス対策がしっかりとられている印象になりますが、その確認は行われていないようです。そのため、店舗の安全対策について、かえって誤解を与えてしまう可能性もあると思います。

 議会の役割について、著者は「議会は責任の共同処理場」と表現しています。知事が決めたことを多くの目で点検してもらい、施策をより良いものにしていくことを知事と議員で共同作業で進めていくべき、ということです。知事を取り扱った書籍ですが、議員の役割にも言及してこそ良い施策につながる、という強い信念が感じられます。

 全体を通じて、著者の冷静な分析と熱いメッセージの両方を感じ取ることのできる、素晴らしい本だと思います。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。