火曜コラム「オススメ書籍」第37回:村本大輔「おれは無関心なあなたを傷つけたい」ダイヤモンド社

 著者は漫才コンビ「ウーマンラッシュアワー」の1人で、福井県おおい町出身のお笑い芸人の方です。福井県出身の芸能人はあまり多くないので、同じ地元民の目線で個人的に応援しています(政治的発言の内容については別ですが)。

 以前、私がニュース番組に呼ばれて出演した時に、村本さんがMCをされていました。AbemaTVの夜のニュース番組に2016年末(当時は福井県立大学教員として)出演し、高速増殖炉もんじゅの廃炉について地元の視点から話をしました。村本さんも地元ということで、熱く語っておられたことを覚えています。しかも、その日の午後はたまたま幕張のよしもとお笑いライブに見に行っていて、ウーマンラッシュアワーの漫才を見ていました。そこで「福井出身の人いますか?」との呼びかけに私も手を挙げて出身地を答えたので、昼と夜の2回も同じ空間でコミュニケーションをとったことになります。

 福井を離れて東京に暮らすようになってからも、新宿ルミネや田町の小さなホールでのライブ・トークに何度か行きました(新型コロナウィルスの蔓延する前ですが)。村本さんは最近ほとんどテレビに出ていませんが、年に1度だけ出ている「THE MANZAI」は私も毎年見ています。本に書かれていることも、そうした場で何度か聞いていた内容が入っています。

 芸能人が政治的メッセージを発信することは、ワイドショーのような番組を除いてタブー視されています。特に、人々の対立を招くものや触れたくないことに関しては、メディアでの発信が避けられているように思います。しかし、村本さんは、あえてそうしたテーマに切り込み、現場に足を運び、当事者の話(本音)を聞き、過激さも盛り込みながらお笑いのエッセンスもしっかり交えて発信してきました。本書は、そうした発信の内容に基づいて書かれたものです。

 ウーマンラッシュアワーの漫才は、村本さんのマシンガントーク(しかも超ハイスピード)でまくしたてるようなスタイルなので、本で読むと話を聞いているときのような雰囲気とは少し違うかもしれません。しかし、だからこそ言いたいことを本書でじっくりと受け止めることもできました。取り上げられているテーマの幅は、原発や沖縄・福島の被災地、ダウン症など、実に幅広いです。メディアで頻繁に取り上げられるテーマもありますが、村本さん独特の切り口で語られるのも面白いですし、とても刺激的な本ですが最後は笑いで締めているので後味も良いです。どうしても好き嫌いが先行してしまいがちな方ですが、どのように感じるかは人それぞれで良いと思うので、タイトルを見て「傷つきたくない=読みたくない」と避けるのではなく、皆さんも村本さんの話と本の両方に触れてみてはいかがでしょうか。

 私自身も専門分野に関しては強い関心を持って取り組んでいますが、専門分野でないものにはやはりなかなか目が行き届きません。本書には私自身があまり見てこなかったテーマにも切り込まれていますが、タイトルのように本書を読んで傷つくことはありませんでした。それよりも、これまでにない切り口でいろいろな発見があったことが刺激になりました。

 今後はアメリカにわたってスタンドアップコメディをされるとのことですが、地元民としてこれからも応援していきたいと思います。

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