火曜コラム「オススメ書籍」第38回:池田守男・金井壽宏「サーバントリーダーシップ入門」かんき出版

 大学では「リーダーシップ教育」が注目されていて、特徴的な取り組みで多くの学生を集める大学や講座もあります。また、企業でもリーダーシップ研修などが行われています。私が地方公務員の頃(もう14年も前のことですが)にはこうした名称の研修はありませんでしたが、定型的な業務だけではなく創意工夫を要する仕事が増えてくるなかで、公務員の世界でもリーダーシップがますます重要になってくると思います。

 さて、本書は単なるリーダーシップではなく「サーバントリーダーシップ」について書かれた本です。これはリーダーシップの1つですが、「サーバント」とは「奉仕する」という意味なので、直感的にはリーダーシップの逆つまりフォロワーの姿勢に連なると思われるかもしれません。しかし、これは「相手に奉仕すること・尽くすことを通じて、相手を導いていくこと」であり、まさに導くという点でリーダーシップだと言えるでしょう。

 では、相手に奉仕することがなぜリーダーシップにつながるのでしょうか。それは、奉仕型のリーダーが部下の信頼を醸成することで、部下もついてくるからです。「おれについてこい!」という強烈なカリスマ性に基づいたトップダウン型のリーダーシップとは対極ですが、部下がついてくるという行動はどちらにも共通するものです。

 それでも「奉仕」ということには、どうしてもリーダーシップとはかみ合わない印象があります。例えば、公務員は「全体の奉仕者」たることが求められます。この奉仕は、決して相手(国民全体、地域住民全体)を導くために行うものではありません。あくまで、公益的見地から公平にサービスを提供することを意味していると思います。公務員でなくても、やはり奉仕とリーダーシップは相いれないように思うでしょう。

 ただ、こうした違和感を覚えるだけに、本書は斬新でもあると感じます。重要なのは、サーバントリーダーが単なる奉仕ではないということです。リーダーとしてのミッションをしっかり持っていて、それに皆が向かっている限り支えるということが肝心だ、と本書では述べられています。つまり、ミッションに合致するかどうかが支えるかどうかの判断基準になるわけです。ミッションがなく、ただ支えるだけであれば単なる召使いになってしまいますし、それはフォロワーも決して好ましい状況ではないでしょう。

 このように考えると、サーバントリーダーシップこそリーダーシップの本筋ではないかとも思えてきます。フォロワーがしっかりついてきてこそリーダーシップが発揮されるとすれば、リーダーの確固たるビジョン・ミッションとリーダーへの信頼が大変重要だからです。カリスマ性のあるリーダーもビジョン・ミッションや信頼がある人物だと思いますが、少しでも信頼を失えば強制に陥ってしまうのではないかと思います。サーバントリーダーシップに強制の要素はありませんし、こうしたリーダーシップがあるということが広く認知されるようになれば、これからリーダーシップを発揮する人が増えてくるのではないか、そして、それが社会の発展をけん引するのではないかと期待できます。

 その意味では、これからを担う若い人におススメの本ではないかと思いました。どうしても若いと遠慮してしまいますし、カリスマ性を発揮できる人が限られていると思います。奉仕するという発想をリーダーシップに生かす若い人が増えてくることを望んでいます。

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