金曜コラム「文章、プレゼンの基礎」第24回:インパクトと緻密さのバランス
文章でもプレゼンテーションでも、受け手に強い印象を与えて内容に同感してもらうことが必要です。強い印象を与えるにはインパクトが求められ、内容に同感してもらうには説得力が求められます。
ただし、いずれも必要なのですが、この2つには相反するところがあります。例えば、インパクトを与えるには短い言葉を使って端的に表現すること、予想外の展開や内容を示すことなどが有効です。これに対して、同感してもらうには丁寧に説明すること、正しいと理解してもらえる展開や内容を示すことなどが有効です。したがって、インパクトを重視しすぎると丁寧な説明が欠けてしまったり、同感してもらうことを重視しすぎるとインパクトが弱く印象に残りにくいものになってしまいます。一方に偏りすぎると他方がおろそかになってしまうのです。
そこで、インパクトと緻密さのバランスが必要です。もちろん、文章やプレゼンテーションの目的によってベストバランスは違うかもしれませんが、どちらかに偏ることは避けるべきです。例えば、商品のPRを目的としたプレゼンテーションはインパクトが購買意欲に訴えるのかもしれませんが、それでは「面白そう」と気を引くだけで終わってしまいます。それが「欲しい!」となって実際の購入につなげるには、便利な使い方や機能が備わっていて、他の商品にないものを丁寧に説明する必要があるでしょう。また、研究論文を書く場合は丁寧な説明が中心になると思いますが、その研究が社会に大きな影響を与えることで論文の価値が生まれるとすれば、インパクトの大きさも重要になります。
私は、文章やプレゼンテーションが1→2→3と展開していくなかで、1でインパクトと説明のセット、2でもインパクトと説明のセット、3でも…というように、パートごとにインパクトで相手の心をつかみ、説明で確信に変えていく形が良いのではないかと思います。細かい単位で組わせることによって、徐々に印象を強め、内容を深めていくことができるのではないかと考えます。
仕事でよく見るプレゼンテーションでは、政府の資料には緻密さが前面に出ています。もちろん、プレゼンテーションというよりも説明のためのスライドなのですが、情報量の多さに圧倒されます。説明者の話はプレゼンテーションの内容からポイントになる部分をピックアップする形になります。そこで、強いインパクトを受けることは少なく、聞き手は資料に目を通しながら自分で関心のある部分を探し、話にも耳を傾けるという形になります。逆に、インパクトの強いプレゼンテーションは、TEDのプレゼンテーションです。スライドは背景に後退し、話を聞いて内容を理解している形です。後者の方が資料よりも話し手に注意が向くので、聞き手とのコミュニケーションが重要になってきます。
どちらもプレゼンテーションの形ではあると思いますが、個人的にはこれらのミックスが良いのではないかと思っています。つまり、パートごとにインパクトのある内容と緻密な説明を組み合わせて、展開していく方法です。政府の会議やTEDで、プレゼンテーションの動画を見ることができます。これらを参考にしながら、良いプレゼンテーションとは何かを考えてみてください。