火曜コラム「オススメ書籍」第45回:宮内泰輔・上田昌文「実践 自分で調べる方法」岩波書店(岩波新書)

 情報化社会と言われ、多くの情報を簡単に入手することができるようになってきましたが、大切なのはそれらを余すところなく吸収するのではなく、むしろ有益な情報を見極め、絞り込んでいく力です。

 情報収集の手段としてインターネットは大変有益なものですが、検索機能には怖い面もあります。それは、皆が見ているページ、自分の嗜好に合ったページが上位に並んでいるため、新しい発見ができなくなってしまうことです。むしろ、自分の嗜好が周りに合うように誘導されてしまい、ますます自分の殻に閉じこもってしまうことになります。

 こうした事態を防ぐには、自分がめざしていることを明確にして、その目的のために調べるしかありません。この本には文献や資料の調べ方からフィールドワーク、情報の整理からアウトプットまでかなり深い方法が説明されていますが、その前提として調べる目的を明確にすべきことを冒頭で述べています。この点について書かれている部分は文量こそ少ないのですが、実はここが最も重要なのではないかと思います。

 調べる目的が不明確なままで多くの情報を収集しようとしても、意味はないと思います。これだけ情報過剰な世の中となったので、個人で多くの情報を収集しようとしても大海の一滴にしかなりません。目的を明確にして、必要と思われる情報を絞り込んで、その部分に全力投球することが必要だと思います。

 本書は、先に挙げたようなさまざまな調べ方が紹介されていますが、非常に深いところまで述べられています。研究のために調べることを仕事としている私も多くのことに気づかされました。本書を手にした時は大学生が立派なレポートや卒業論文を書くためのハウツー本のようなものと思っていたのですが、まったく違っていました。

 もちろん、学生でも一通りの調べ方を修得している場合に、より高いレベルで調べたい場合には大変有益な本だと思います。

 なお、本書の著者が専門とする分野について深く記述されているところもあるので、異なる分野で調べる場合には必要性の低いところもあるように思います。本書の使い方としては、一通り読んだ上で本格的に調べる段階になったら該当する箇所をしっかり読んでから調べる、という形が良いのではないかと思います。

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