火曜コラム「オススメ書籍」第46回:大森彌・大杉覚『これからの地方自治の教科書』第一法規

 地方自治についての書籍をこれまで何度か紹介してきましたが、その多くは法律の条文や解釈の説明であったり自治体の政策分野における課題の解説など、どちらかと言えば大学の学部生や法律を学ぶ人人に向けた書籍でした。この本はそうした方々にももちろん有益なのですが、地方自治の初学者や自治体職員、一応現場で実践する人に向けた熱いメッセージが込められた本だと思います。1990年代から本格化した地方分権改革も、これまで大きな成果を上げてきました。しかし、本当の成果は改革を自治の現場でどのように活かせるかにかかっています。その意味で言えば、まだ本当の成果には充分到達していないと言う意見もあります。

 つまり、大切なのはこれまでの成果ではなく、これからの地方自治ということになるでしょう。この本はそのタイトルからも分かるように、これからの地方自治のあり方について幅広い面から述べた、大変分かりやすい本です。

 興味深いのは、ふだん何気なく認識しているものが地方自治に大きな意味を持っていることに気づかせてくれるところです。例えば、住民票の意味とは何か、住民になることの意味とは何か、といったことは日ごろの生活で考えることはありません。しかし、よく考えてみると地方自治の非常に重要なテーマになっていることに気づかせてくれます。

 また、住民の「元気」という点に着目している点も面白いです。経済学では「活力」という言葉をよく使い、「地域活性化」等がテーマとなります。しかし、ここで言う「元気」は経済的な側面ばかりではありません。特に、元気が「抵抗」によってもまれると述べている点が印象的でした。抵抗といえば迷惑施設の建設反対等に見られる住民運動がイメージされますが、「私」の利益を大切にしつつも、それを超えて立場の違う相手と取り合っていくことが「元気」をもたらす、という意見には大きな気づきになりました。

 最近の新型コロナウィルスに関する報道を見ていても、地方自治がどうあるべきかを考えさせられます。国の意思決定や情報発信だけでなく、都道府県知事や市町村長も独自の立場から意思決定や情報発信、国への要請等を行い、ときには国の立場と衝突するような事態も起きています。これは1つの地方自治の発現として見ることもできると思います。一方で、住民の行動を見ていると国や自治体からの情報発信や要請に対して様々な反応が見受けられます。肯定的な意見や行動もあれば、批判的な意見や行動も見られ、夜の繁華街では時短要請にもかかわらず深夜まで営業を続けたり、時には公務員自身がルールを破ってしまう事態も起きています。このような事態を「断絶」と捉えてしまえば相互に批判をし合ってしまうだけですが、大切なのは「自治」つまり地域全体を良い方向に持っていこうとする姿勢です。そのために何をすべきかは私個人では考えも及びませんが、さまざまなケースを題材として、この本から自治のあり方を考えることができると思います。

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