火曜コラム「オススメ書籍」第47回:西尾勝「国会の立法権と地方自治ー憲法・地方自治法・自治基本条例」公人の友社

 行政学の大御所であり、地方分権の推進に多大な貢献をされた著者による講演録です。興味深いのは、最近の講演に加えて1976年のものも含まれている点です。地方分権を巡る経緯や著者の主張の変遷、そして何よりも著者が長らく地方分権の推進に寄与されてきたことが2本の講演を通じて認識できます。

 書籍そのものは薄いのですが、内容は大変濃く、しかも地方自治をめぐる幅広いテーマを扱っていて、とても刺激的です。私も講演を拝聴したことはありますが、この本からも冷静な話し方でありながら熱いメッセージを感じます。

 例えば、自治基本条例は国内でブームのように広がりました。しかし、これは決して目新しいものではなく、戦後の憲法のなかでも構想されていたようです。しかし、政府がこれを拒絶したため憲法での位置づけはありません。そのため、確かに自治基本条例は有意義ではあるものの最高規範としての性質は不十分なものになっている、という指摘に思わず唸ってしまいました。

 また、国政に自治体が関わることで自治を進める提案も興味深いです。具体的には、参議院を地方自治保障の機関とする、といったことです。確かに、参議院の位置づけや役割は衆議院との明確や違いを見いだせなくなりつつあります。ただし、参議院には1票の格差が大きく、議席の配分を人口によるだけでなく地域間のバランスを強めに考慮していることがあると思います。そこで、都道府県の代表も参議院を構成し、地方自治保障院として機能させる案を提示しています。これにも「なるほど! こういう考え方もあるのか」と大きな刺激を受けました。

 このように考えると、憲法改正も違った角度から捉えることができます。どちらかと言えば憲法改正は9条に注目が集まりがちですが、地方自治の保障をより明確に位置づけることも、これからの地方分権に必要になるかもしれません。ただし、著者は「現政権では危険なので、好機の到来を待ちたい」と述べています。拙速な議論で難局に巻き込まれてしまっては、かえって議論を萎縮させてしまうかもしれません。熟議を重ねて現憲法の範囲内で成果を積み重ねながら、その時を待つというのが適切ではないか、と私も感じます。

 いずれにしても、最も大切なのは自治体における地方自治の実践です。自治体関係者の方々は著者の熱い想いを汲み取って、行動に移していただきたいと思います。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。